1Dシミュレーションでプリント基板上の熱拡がりを表現する必要性と方法
2020.01.27
前回は1Dシミュレーションの結果と実測結果が“簡単には合わない”理由と、その対策方法について解説しました。
今回は、1Dシミュレーション・MBDを用いて熱問題対策をする上で非常に重要となる、1Dシミュレーションでプリント基板の熱拡がりを表現する必要性とその方法について解説します。
「複数発熱モデルでは実測との乖離が大きい」→では、どうするか?
前回は複数発熱する場合の1Dシミュレーション結果と実測結果が乖離してしまう要因についてお話してきました。
では、複数部品発熱する場合においてどのように1Dモデル化すれば良いのでしょうか?
モデル化のアプローチとして、ここでは以下の2つの方法を検討してみます。
- (1)基板モデルを内部でグリッド分割するように、熱抵抗エレメントを配置し、基板内の平面的な熱拡がりを表現する。
- (2)熱拡がりを含んでいる3Dシミュレーションの結果を1Dシミュレーションへ取り込む。
グリッド分割によって基板上の面方向の熱拡がりを表現する
まずは、基本的な考え方である(1)の方法を検討してみます。
これは言葉の通り、熱抵抗エレメントをグリッド状に配置し、それらをまとめて基板モデルとするアプローチです。
熱抵抗エレメントをグリッド状に配置することで、面方向の熱拡がりを表現します。
それによって、前回までの手法ではうまく表現出来なかった部品間の熱の干渉が再現できるようになります。
具体的にはグリッド状の基板モデル内部で求めた熱拡がりを含んだ温度を、抵抗器の各部位に還すという考え方でモデル化しています。
この方法のデメリットは、「資料①」を見て分かる通り、モデルが複雑になってしまうことです。 グリッド状の熱抵抗エレメントを一つのエレメントに集約することは可能ですが、集約したエレメントの内部構造を変更したい場合などは、少し手間がかかってしまいます。
3Dシミュレーションを併用する
そこで、1Dモデルをできるだけ簡素化する場合には(2)の方法が有効です。
シンプルなアイデアとして、3Dシミュレーションの結果から基板温度や熱抵抗を抽出し、1D側へ代入する手法を検討してみます。
しかし、これでは複数発熱させたい場合や複数の抵抗器の発熱量が異なる場合には、その度に3Dシミュレーションを実施しなくてはいけません。
そこで複数の抵抗器に対してランダムに発熱量を定義した3Dシミュレーションをまとめて実施し、その結果をもとに関数化することで、複数発熱した場合にも対応できる熱抵抗モデルにすることができます。発熱量だけではなく、部品間の距離なども変数にして実施するとより汎用性の高い熱抵抗モデルを作成することができます。
これらの詳細は、この連載で説明するには少々長くなる(複雑になり過ぎる)ので割愛しますが、ご興味のある方は、是非下記の「問い合わせフォーム」からご連絡ください。
少し脱線してしまいましたが、上記の2つの方法でモデル化を行うことにより、基板の熱拡がりを1Dシミュレーションで計算できるようになりました。モデル化には少々手間とスキルが必要になりますが、一度モデルを作成してしまえば再利用は容易にできますので、ぜひ皆様もトライしてみてください。
※今回のような単純な電気回路(抵抗アレイのみ)となら連成計算することもできます。
まとめ
全3回に渡りお付き合いいただきありがとうございます。いかがだったでしょうか。
プリント基板の熱シミュレーションは、エレクトロニクス製品の設計には今後も不可欠のテーマだと思います。
それだけに、より早期に・手早く検討結果が得られ、検討の過程や内容を把握・蓄積しやすい1Dシミュレーションの効果が現れやすいのではないか、と考えています。
本連載では、その中でも1Dモデリングを進める上で、重要かつ汎用性の高いプリント基板のモデリングを連載の題材に選んでみました。
この他にも1Dシミュレーション・MBDの事例をご紹介しています。ご興味を持っていただけましたら、こちらの資料も是非ご覧ください。
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