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基板と熱設計
第12回 熱設計ツールについて
2013.10.28

  こんにちは。株式会社ジィーサスの藤田です。
今まで熱設計の概要を述べてきましたが、実際の熱設計では電卓からシミュレーションツールまで、様々なツールが用いられます。今回はそのツールについて説明していきたいと思います。

私は以前メーカで実装設計を担当する設計者でした。実装設計と言っても基板に部品を搭載する設計だけでなく、寸法を決める設計は何でもやるという部署でした。だから大は通信設備のフロアレイアウトから小はインピーダンスマッチングを考慮したパターン幅まで、装置でいえば2mを超えるラック装置から(もう死語ですが)ポケベルまで何でも設計しました。

しかし、昔はほとんど熱設計を行った記憶がありません。真剣に熱設計をやったのは車載無線機や屋外装置ぐらいでした。真剣にといっても、今も使われている筐体内温度上昇を求める簡易式を電卓で計算する程度です。当時の製品は一般に消費電力に対して製品が大きかったので、何も考えずに設計試作しても熱問題はほとんどありませんでした。

しかし、時代の流れとともにエレクトロニクス製品は確実に高密度化し、たとえば通信装置用のラックは外形こそ変化しませんが、昔はラック当たりの消費電力が500〜600Wだったのが、近年は10KW近くまで大きくなり、通信室全体をエアコンでどうやって冷やそうか?というエコとは真逆の課題に直面したりしています。こうなると電卓で簡易式を使って計算するというレベルでは済まなくなり、シミュレーションを使って大局的な状況把握とチップレベルの詳細な現状把握を同時に行う、などという必要性が出てきます。

また最近のコンシューマ製品では周囲温度上限に対して許容温度上昇が10℃程度しか確保できない場合も珍しくなく、放熱シートやねじのトルクを調整して各部の熱抵抗を細かく設計する、などという作業も多くなっています。この場合も電卓では太刀打ちできない場合が多く、シミュレーションソフトを使ったり、場合によっては熱回路モデルを自分で細かく抽出してマトリクス計算プログラムで解析する、などということも必要になってきます。(実際の熱設計で一番苦労するのは温度差(ポテンシャル)が小さい時ではないでしょうか?)

このように時代の変化だけでなく、状況の複雑さも多様化しているため、熱設計ツールもそれに合わせて高度化してきたものと考えることができます。熱計算にツールが必要なもっとも簡単な理由は、装置全体の放熱量は伝導・対流・放射の伝熱三態の放熱量の合計なのと、そのうち対流と放射の熱伝達率に温度が入っているためで、逆に消費電力が与えられたときに温度を計算しようとすると、数値計算が必要になるためです。

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たとえば放射熱伝達率は前回記載したように(T14−T24)を因数分解して(T1−T2)を外に出しただけなので、残りの温度計算式(T12+T22) (T1+T2)は放射熱伝達率の中に残っています。対流熱伝達率も同様に中に温度の項があるため、一般に放熱量は温度の高次式になります。

これを計算するのは電卓でも厳しく、最近はEXCEL等の表計算シートを使って計算するのが最も簡便な方法だと思います。ただ通風孔やファンが付く一般的な製品では、対流熱伝達による放熱量が伝導、放射に比べて大きいため、おおよその温度を知るだけなら対流熱伝達量だけの計算でも傾向がつかめます。これなら電卓だけでも計算できます。しかし最近の製品は前述したように温度ポテンシャルが小さいだけでなく、高密度化して製品内の空間が小さくなっているので、そもそも筐体内温度ってどこの温度なの?という状態なので、逆に簡易計算が使えないことが多くなっています。(たとえば携帯電話の筐体内温度って、どの部分の温度でしょう?)

一般に製品の温度計算は、製品内に使用している部品がその部品の許容温度を超えるかどうかを確認するために行いますが、部品温度計算には部品周囲の温度を知る必要があり、そのために筐体内温度計算が必要です。筐体内空間が小さくて部品周囲温度が計算できない場合、どうやって部品温度を計算するのでしょうか?この場合は筐体や基板や部品の熱の流れやすさの関係をモデル化する、つまり熱回路網を把握して、その回路網による連立方程式を解いて各部の温度を求めるか、同様に空間を細かく分割して各ブロックのエネルギー収支を計算式にして、同じように連立方程式を解いて各部温度を求める必要があります。

後者が一般のシミュレーションソフトの原理なので、つまりこのようなモデルはシミュレーションソフトを使ったほうが楽に計算できます。ただし、シミュレーションソフトを使ったことがある人はわかると思いますが、いろいろなパラメータを入力する必要があり、ここに正しくない数値を入れれば当然計算結果も正しくないことになります。

たとえばシミュレーションソフトは各構成部材に対し熱伝導率・比熱・密度、放射計算する場合は表面放射率を入力する必要がありますが、PBGAのプラスチックモールドの熱伝導率を正しく入力できるでしょうか?確かエポキシ樹脂だからエポキシ樹脂の熱伝導率を調べればいい、と思うでしょうが、一般に半導体のプラスチックパッケージは熱伝導率を大きくするためにいろいろと混ぜているので、エポキシ樹脂の熱伝導率で計算すると半導体チップ温度は高めに計算されます。安全側に出ればいい、という場合はこれでもいいと思いますが、シミュレーション結果からヒートシンクを付けたけれど、実測したらヒートシンクが不要だった、という結果になりかねません。 

また構想設計段階のように設計が始まったばかりだと、たとえばCPUは決まったが周辺回路が決まらないとか、FPGAを使うことにしたがまだ内部設計できていない、という状況では消費電力が正しく入力できません。この状態でシミュレーションソフトを使うと、やはりモデリングや入力工数に見合った結果が得られなくなります。

最近のシミュレーションソフトは大変良くできているので、正しい値を入れて正しく使えば本当に正しい結果を出すのですが、残念ながら道具であって玉手箱ではないので、買っただけでは正しい答えは得られません。

それではどうすればいいのでしょうか?この答えは残念ながら一つではなく、状況に応じて複数の答えに分かれてしまうと思います。

たとえばデスクトップPCのように比較的内部空間が大きくて構造もそれほど複雑ではなく、かつ大手CPUメーカのように熱計算用の消費電力や熱抵抗情報を開示しているのであれば、電卓による簡易計算でも割と実測に近い温度が推定できます。逆に最近の動画が撮れるデジカメやスマートフォンのように高密度で、かつ使い方によって消費電力が大きく変動し、さらにその温度変動が機器の性能に敏感に影響する場合は、簡易計算による熱設計は無理です。かといってシミュレーションソフトを使っても適当な数値を入れたのでは同じ結果になります。

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結局熱設計は、温度を最初に知りたいけど、その温度を計算するには設計結果である消費電力や熱抵抗を正確に把握する必要がある、という矛盾を抱えていることになります。このため「やはりダメもとで試作しないと温度はわからない」と結論付けて、試作重視のメーカも多いと思います。でも本当に事前の熱設計は無理なのでしょうか?もちろん、私はそうは思いません。

熱設計で一番難しいのは、たぶん正確な消費電力把握です。二番目に難しいのが正確な熱抵抗把握です。毎回全く新しい装置を開発しなければならない場合は、この二つのハードルが高いものになると思います。しかしたとえ毎回新しい装置を開発するとしても、すべての部品や構造が全く新規ということはほとんどないと思います。(毎回新人に設計させるのなら別ですが。)普通は前に使った部品をライブラリ化して次の設計に備えるはずで、そうしないと部品品質や供給性が問題となり製品品質を疑われるはずです。それは製品構造も同じで、クオリティ・コスト・デリバリーのどの面からも、一度採用した部品や構造は使い回しをするはずです。

この考えは熱設計も同じです。消費電力把握で難しいのは半導体部品だと思いますが、具体的には動作のちがい(というかソフトの違い)による入力・出力変動の平均値である温度予測が難しいのと、漏れ電流の把握が難しいためだと思います。また熱抵抗把握で難しいのは、電気部品が複数材料で構成されているため熱の流れる方向で熱抵抗が違うのと、接触部分の熱抵抗を構成するパラメータが複雑だからだと思います。

でもこれらの変動要因はそんなに変動するのでしょうか?同じ部品を毎回違う使い方をするほうがおかしいと思います。だから一度使った部品の消費電力や熱抵抗を記録しておき、それを複数記録して平均値を出しておけば、次の設計に使えないわけはないと思いますが如何でしょうか?

大事なのは熱設計と、熱設計に必要なパラメータを理解することです。部品ごとの消費電力も熱抵抗も測定するのは割と面倒なので、必要性を理解しないと部品ごとに切り分けた測定はしないと思います。逆にこの一手間の重要性を理解すれば、熱設計のフロントローディングは十分可能だと思います。

ツールの話がパラメータの話になってしまいましたが、でも最近の熱設計の核心はこの辺にあると思いますので、あえて脱線させてもらいました。最近弊社でも「知識の再利用」が流行っているのですが、熱設計も同じですね。製品設計で苦労すると、終わった直後は「二度と思い出したくない」と思ってさっさと次の設計に移りたくなりますが、私のように現役から離れると、あのころの苦労が懐かしく思えます。懐かしい思い出に花を添えるためにも、もう少し現役の時代は我慢して最後に部品の消費電力と熱抵抗(または部品温度)を記録しておきましょう!次の設計は少し楽になると思いますよ。

 

◆執筆者プロフィール------------------------------------------------------------------------◆

藤田 哲也

1981年沖電気工業(株)入社。無線伝送装置の実装設計、有線伝送装置の実装設計、および取りまとめを経て、2002年(株)ジィーサス入社。熱設計・EMC設計・実装技術のコンサルティングや教育に従事。2008年から回路・基板・実装に必要なトータル技術を提供する設計サービスに従事している。

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