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基板と熱設計
第13回 構想設計段階から熱設計を導入するには
2013.11.25

こんにちは。株式会社ジィーサスの藤田です。
前回は熱設計ツールについて書きましたが、今回は実際に構想設計段階での熱設計を実現するためにはどう進めればいいか? を考えたいと思います。


たとえばあなたが製品開発のスタート時点で突然上司から「この装置の熱設計をやれ!」と言われたらどうしますか?この記事を毎回読んでいただいているなら、少しは熱設計を理解していただけている(?)と思いますが、具体的に熱設計を行おう場合は最初に何をやればいいのか、戸惑うと思います。色々考えた挙句に熱設計参考書の購入稟議書を最初に書いたりするのではないでしょうか?参考書を読むと伝熱の知識は得られますが、具体的な熱設計の進め方が書いてある本は少ないので、今度は熱設計セミナーを申し込むかもしれませんね。そうこうしているうちに数週間はすぐに過ぎてしまい、納期が迫ってきて「やはり一度試作して温度を測って、ダメなら考えよう」となってしまうのではないでしょうか?

確かに現在では簡単な基板は数日でパターン設計〜製造までできるし、光造形などでモールド筐体も数日でできてしまうため、試作の時間は短くなっていると思います。しかし製品を試作するには設計が終わっていることが前提となるため、試作評価で問題が出た場合はどうしても大きな手戻りが発生してしまいます。少し納期に余裕がある場合は部分試作をチョコチョコやることで大失敗を免れることはできるかもしれませんが、部分しか評価していないので最後はどうなるかわからないし、第一コストがかかりすぎると思います。こうなることは分かっていても「最初のひと手間」がかけられずに構想設計段階の熱設計を断念していることが多いのではないでしょうか?

なぜ構想設計段階で熱設計がやりにくいのでしょうか?一つには上記の例のように「具体的に何から始めればいいのかわからない」という場合があると思います。たとえば、今までは消費電力が小さかったとか、製品寸法がそれほど小さくなかったために過去に熱設計をしたことがなかったメーカが、高機能化・小型化を目指して新たな製品ラインナップを計画するような場合は、熱設計文化がない中で熱設計を強要されることになるので、とても苦労すると思います。また、今まで熱対策はしていても熱設計はしていなかったメーカ、具体的には伝統的に「この部品には必ずこのヒートシンクを使う」ということが決まっているメーカも、ディスコンや機能統合などで電気部品の損失が変化した場合に苦労しますね。で、何を最初にやればいいかを知りたくてwebや書籍を調べても、たとえば「筐体の温度上昇計算方法」や「部品の温度計算方法」は書いてあるけれど、最初に何をやるべきか、どのような順序で熱設計すべきなのか、などはほとんど書いていないと思います。

それと最近よく聞くのが「温度上昇を最初に見積もって設計したけど、試作して温度を測ったらかなり低くて過剰な熱設計だった」という話です。たとえば当初の見積もりでは冷却ファンが必要、との方針で設計したが、実測したらファンが不要だった、というような内容です。もっと具体的に書くと「熱設計するために回路設計部門に消費電力を聞いたら100Wと言われたのでファンを付けたが、実測したら65Wでファンがいらなかった」という機構設計者の話とか、「筐体内温度が75℃になると機構設計部門から言われたので85℃部品を選んだが、実測したら55℃以下だったので一般部品でもよかった」という回路設計者の話とかです。

こういう話をする人は「だから熱設計は当てにならないからやってもムダ!」ということで実測主義になっているようです。これ、よく聞く話で私も経験がありますが、互いにマージンを取りすぎて結果的に過剰設計になるというパターンです。でもその一方で「自然空冷でOKという見積もりで設計スタートしたが、試作したらNGで結局筐体も回路も再設計になってしまった」という話も聞きます。過剰設計と再設計、あなたはどちらを選びますか? 両方とも選びたくないですよね? 経済的な観点で考えれば目標コスト内での過剰設計は問題ないし、目標開発費・納期内であれば試作を含む再設計もアリですが、現実にはそんな余裕がないので苦労するのです。

同じ技術課題でこのような問題はないのでしょうか? たとえば強度設計の場合、一般製品の安全率が10や20は当たり前です。携帯電話を落としても壊れないように設計したら、安全率は数百ですよね? これって「普通に使っているときの数百倍のマージンを持って製品設計している」ということです。EMCも同じです。今ではシールドやフィルターは当たり前になっていますが、VCCIが制定された当時はサイトアッテネーションがよくわからなかったこともあり、マージン数十dBということもありました。これは「EMC本試験サイトの測定誤差がわからないからマージンを取っておく」という考え方ですよね。

このように技術課題は目標値に対しマージンを取って設計するのが普通ですが、強度設計は一般にマージンが大きいのと、関与するパラメータが少ないため計算値と実測値の誤差が少ないのに対し、EMCはパラメータが多いために設計予測が困難で、結果的に実測主体になっています。


では熱問題はどうでしょうか? 

私は個人的には熱設計の再現性は限りなく強度設計に近いと思っています。もちろん対流熱伝達で厳密な気体分子の挙動が把握できないなどの自然現象の再現性に課題はありますが、統計値で処理できる範囲だと思います。だから強度設計と同じように、最終的には試作評価を1回は行う必要があるが、それ以外は適切な計算やシミュレーションを行うことで十分対処できると思っています。ただ熱設計が他の技術課題と違うのが、ファンを付けるか付けないか、空冷か液冷か、というように対策が1か0かみたいにデジタル的な選択場面があり、選択によって外観や信頼性、価格等への影響が大きいことです。これがあるためにマージンに制限がかかるのと、そのマージンを左右する消費電力と熱抵抗が、設計が進まないと確定しないことです。

たとえば強度設計と同じ感覚なら、消費電力は部品の最大定格の積み上げでもいいと思います。逆に言えば、最大定格の積み上げで温度計算しても自然空冷で大丈夫という結果なら、大幅な部品追加がない限り自然空冷でOKという判断ができるはずです。また信頼性第一なら最初から許容温度上昇を低めに設定するはずで、普通なら自然空冷で可能な範囲だとしても、少しでも許容温度を超える可能性があるならファンを付ける、という判断をすると思います。

大事なのは判断のための目標とマージンを明確に決めることと、できるだけ正確な設計情報を集めることです。消費電力は部品最大定格の合計がMAXですが、過去に使ったことがある部品なら大体どのような動作をすればどれくらいの損失になるかは推定できると思います。過去の設計で得た情報を流用すれば、熱設計のマージンは少なくすることが可能なはずです。設計情報の蓄積については前回の最後のほうで詳しく書いたと思いますので、参照していただければ幸いです。

長く書いてしまいましたが、熱設計の難しさは目標温度をクリアするだけでなく「なるべくギリギリでクリアする」ことを求められることにあり、具体的には「ヒートシンクなしで行けるか?」「ファンなしで行けるか?」という冷却部材要否判断が必要なためなのが一因だと思います。ただしいきなり「このCPUにヒートシンクはいるか?ファンはいるか?」と言われても、判断するには消費電力と熱抵抗だけでなく、そのCPUの周囲温度や風速や、製品全体の消費電力などが必要です。その「全体を見て温度を予測する」とか「全体温度から部品温度を予測する」というような回りくどいやりかたも、やったことのない人には判りづらいのだと思います。互いに関連する要素の集まりをシステムといいますが、熱設計も実はシステムアプローチが必要だったりするのでわかりにくい印象を与えるのではないでしょうか? 「あれを決めるにはこれを決めて…」というような具合にシステムは順序立てて設計する必要がありますが、熱設計も設計順序があります。だから何をどの順番 で決めればよいか? がわかれば、案外熱設計は敷居が低くなるのではないかと考えています。


今回の話を整理すると、構想設計段階から熱設計を行うために必要な要素は

  ・熱設計の順序(プロセス)を理解する
  ・設計条件と設計目標、マージン等のルールを明確にする
  ・できるだけ詳細な設計情報を集める

 

ということになります。
もちろんそれ以前に、熱設計を行うためのスキルが必要なことは言うまでもありません。この「プロセス、ルール、データ、スキル」という要素は熱設計だけでなく、強度設計やEMC設計でも共通に必要な内容だと思いますので、製品設計環境ではぜひ整備しておいていただきたいと思います。(言われなくてもだいたい揃っていますよね?)

 

◆執筆者プロフィール------------------------------------------------------------------------◆

藤田 哲也

1981年沖電気工業(株)入社。無線伝送装置の実装設計、有線伝送装置の実装設計、および取りまとめを経て、2002年(株)ジィーサス入社。熱設計・EMC設計・実装技術のコンサルティングや教育に従事。2008年から回路・基板・実装に必要なトータル技術を提供する設計サービスに従事している。

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