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基板と熱設計
第18回 製品構造と熱設計
2014.04.30

こんにちは、ジィーサスの藤田です。

現代の製品のほとんどに基板が入っていますが、その実装形態は様々です。携帯電話からテレビ・PCなどの情報家電、洗濯機・冷蔵庫などの白物家電、車載のいろいろな電装機器、通信や電力などのインフラ機器、医療から宇宙分野まで、基板は実にさまざまな製品に使われており、環境や製品構成や回路構成の難易度に応じて、その実装構成もさまざまです。しかし見方を変えれば基板はただの「板」なので、発熱する板の設置条件というように割り切ってしまえば、実装条件は案外単純化できます。 

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長方形の板の設置方法は、水平に置くか、垂直に置くかのどちらかです(あえて斜め置きは無しとします)。基板の場合は水平に置くとき、A面を上にするかB面を上にするかの違いがあります。また垂直に立てるとき、長辺か短辺のどちらを垂直にするかの違いがあります。つまり基板の設置方法は4種類あるということです。あとはその基板を筐体に何枚、どのように実装するのかの違いと、筐体と基板の隙間というか、空間余裕度の違いになります。

 

たとえばスマートフォンだと薄いので基板は水平に1枚か、2枚以上でも同一平面に実装すると思います。同じ薄型でも液晶テレビは基板が縦に実装されます。デスクトップPCだとマザーボードにグラフィックカード等が直角に実装され、これがタワー型筐体だとマザーボードが縦に、据え置き筺体だとマザーボードが水平に実装されます。通信装置だとサブラックにマザーボードが縦に実装され、直交してドウターボードが複数枚実装され、そのサブラックが縦に数段実装されたりします。

さて、放熱を考えた場合、基板はどのように実装したら有利でしょうか?

一般に「水平か、垂直か」という表現は重力方向に対しての向きを表現しますが、放熱を考慮する場合は空気の流れに対して水平か、垂直かを考えます。自然空冷の場合、空気は浮力で重力方向と平行に流れるので、重力方向と同じ表現でいいのですが、強制空冷の場合はファンの取付面によって違ってきます。それでは空気の流れに対して基板は水平に置いた方がいいでしょうか?垂直に置いた方がいいでしょうか?

前に対流熱伝達の話を説明した時、対流による伝熱量を増やすには単位時間あたりに固体に接触する空気分子の数を増やせばいい、そのために強制空冷で空気分子をいっぱいぶつけたほうが冷える、というように説明しました。そのためには流速が速いほうがいいのですが、空気の流れに対して基板が垂直だと流れがせき止められるので、流速が落ちてしまいます。このため一般には流れに対して基板を水平に置いた方が、垂直に置くより冷えるということになります。したがって自然空冷の場合は重力方向に基板を立てたほうが冷えやすいし、強制空冷の場合はファンと吸気口を結ぶ方向に平行に基板を置いた方がいいことになります。

しかし、たとえば自然空冷だが水平に置けば基板が1枚で済むのに、基板を縦置きにするためわざわざ複数枚に分割することは、しませんよね?ふつうはコスト優先で製品設計を行います。でも基板分割をしないでファンを付けた場合と、基板を分割して垂直置きした時の冷却効果とコストが同じだったら、どちらを選びますか?製品設計ではこのように冷却構造とコストがトレードオフの関係になるので、基本構造を決める構想設計段階での熱設計が重要なのです。

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次に基板を空気の流れに平行に置くとして、基板の長辺を流れ方向に向けたほうがいいでしょうか?それとも短辺を流れ方向に向けたほうがいいでしょうか?たとえば均一発熱の基板を2分割して、それを縦2枚に置くときと横2枚に置く時を考えてみます。基板の発熱で周囲空気は温められるため、風上(下側)より風下(上側)のほうが基板面と周囲空気の温度差は小さくなります。対流伝熱量は面積×対流熱伝達率×温度差なので、温度差が大きいほうが伝熱量は大きくなるので、縦長より横長のほうが温度差をキープできることになります。このため縦に2枚置くより横に2枚置いた方が伝熱量は大きくなるので、短辺を流れ方向に向けたほうが、長辺を流れ方向に向けるより放熱量が大きくなります。

このように、自然空冷でも強制空冷でも、基板は空気の流れに対して平行に置いた方が放熱効果は高く、また基板の短辺を空気の流れ方向に向けたほうが放熱効果は高くなります。熱設計上はこれがセオリーなので、あとはユニット構成やコストとの駆け引きでどこまでバランスの取れた製品構造を実現するか?を考えることになります。ただし許容温度を満足する範囲での駆け引きですが。

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また、これが携帯電話のように筐体が薄くて、基板と筐体の間の隙間が小さいと事情が違ってきます。空気といえども粘性があるので、隙間が小さいと粘性の影響で動きづらくなります。特に携帯電話やスマートフォンのような場合、内部は密閉され、しかも持ち方によって筐体のどっちが上なのか横なのかわからない、といった使われ方なので、わざわざ基板を短冊状に切って縦に並べる意味がありません。小型密閉製品の場合は空気の対流より熱伝導や放射による伝熱を主体にした放熱経路設計が有効になります。

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私はむかし通信装置の実装設計を行っていましたが、基幹装置と言われる製品のほとんどはラック装置で、本箱に本を並べるように基板を実装するので「ブックシェルフ実装」と呼ばれていました。本箱の一段一段はサブラックと呼ばれ、サブラックを縦に数段重ねて使っていました。この場合の冷却方法は自然空冷と強制空冷で違っていて、強制空冷の場合は数段重ねたサブラックの上にファンを設置し、一気に下から上へ風を流す構造が主流でした。この場合は基板列の下と上での温度差があまり大きくないため、許容温度に対し基板の縦列ごとに何ワット消費可能かをあらかじめ求めておき、縦列の合計が許容消費電力を超えないように各基板の許容消費電力を決めていました。ラック装置の場合は各基板を機能単位や交換単位で分割するので、すべて同じ発熱量の基板になることは少ないため、発熱量の異なる基板を縦列の合計消費電力を計算しながら組み合わせて実装構成を考えていました。これとは逆に自然空冷の場合は基板列の下と上で温度差が大きくなるため、各サブラックの間に仕切りを入れ、サブラックごとに外気を取り込む構造としていました。自然空冷の場合はこの仕切り板の構造がミソで、うまく造らないと下のサブラックで温まった空気を取り込んでしまったり、排気側から暖かい空気が逆流したりします。私の熱設計の師匠であるサーマルデザインラボの国峯先生は、この仕切り板構造を理論と実験で最適化した功績者です。今のラックタイプの通信装置は、大きな基板を平置きにした薄いサブラックを使う場合も多く、この場合はファンで前から後ろ方向へ空気を抜いています。この場合は前面・背面の通風抵抗を小さくする必要があるため、オープンラックに搭載される場合も多いです。

通信装置の場合はこのラックを機械室に数十台設置するので、計算機ルームと同様に室内空調設計も重要でした。基板を縦に実装して下から上へ空気を抜く場合は、二重床の底上げした配線スペースにエアコンの冷気を通して、その冷気を直接または間接的にラックに取り込んでいました。前から後ろへ空気を抜くサブラックの場合、逆に室内空調設計が難しくなると思います。

製品構造と熱設計の話は、最後は室内空調までいってしまいましたが、家庭の電化製品設置環境も同じですよね? たとえば冷蔵庫は壁から離すとか、テレビやBDレコーダーは直射日光が当たらないようにするとか、熱のことを考えれば、なぜそうしなければならないのかが理解できると思います。製品を設計するときは、逆にその環境を想定しながら設計すればいいのです。

 

◆執筆者プロフィール------------------------------------------------------------------------◆

藤田 哲也

1981年沖電気工業(株)入社。無線伝送装置の実装設計、有線伝送装置の実装設計、および取りまとめを経て、2002年(株)ジィーサス入社。熱設計・EMC設計・実装技術のコンサルティングや教育に従事。2008年から回路・基板・実装に必要なトータル技術を提供する設計サービスに従事している。

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