エンジニア派遣 電気設計/機械設計/システムエンジニアのスペシャリスト「図研テック」
基板と実装設計
第18回 製品利用環境と実装8
2015.12.22

こんにちは、ジィーサスの藤田です。
このメルマガも長らくJIS C60721「環境条件の分類」をネタに書いてきましたが、最後の項目は「電気および電磁妨害」です。
エレクトロニクス製品を扱う人たちには必須の項目ですね。私もエレクトロニクス製品のメーカに入社して2年目から(1年間は教育期間でした)、電波とのお付き合いが始まりました。しかし専門が機械系なので、専門的に電波の勉強をしたわけではありません。たまたま最初に担当した製品が無線機だったので、どうしても電波の影響を考える必要があったのです。無線機の機構設計で気を付けるべき点は、やはりシールドが第一ですかね。

私がメーカに入社して最初に描いた製品図面が「シールドケース」でした。当時は言われるままに図面を描いていましたが、やたらと溶接やネジ数が多い図面を描いていたような気がします。あと今でも印象に残っているのが、実験室で回路設計者がオシロスコープを見ながら基板にシールド板をはんだ付けしていたことでしょうか。スピーカからはガーピーとうるさい音を出しながら、シールド板をはんだ付けする「スィートスポット」を探している作業です。この印象が今でも残っているので、ノイズ対策は教科書通りに設計すれば答えが出るのではなく、最後は体を使って設計するものだ、と思っています。
なので、熱対策にはシミュレーションをよく使うのにEMC対策にはEMCサイトやシールドルームが多用されるのも理解できます。ただ、昔の無線機設計と今のEMC対策の大きな違いは、無線機は98%ぐらい設計でS/N比向上策を盛り込み、最後の1~2%の部分を「体で設計」していたのに対し、最近のEMC対策は、場合によっては100%「体で対策」しているのを見受ける点だと思います。熱やEMCといったエネルギー問題は、肉眼で見えないために「試作後の評価で問題が出たら対策する」という、ばくち打ちのような対応が今でも残っているようですが、現代の設計環境はばくちを打てるような余裕はないはずです。
だから、ばくちを打ったことのある人はその経験を後輩に伝えて、後輩がばくちを打つのを阻止すべきです。先人の経験を積み重ねて肥やしにしないと、いい製品は設計できません。

さて、JIS C60721の「電気および電磁妨害」における環境パラメータ項目にどんなものがあるか見てみましょう。
この項目だけ「IEC/TS61000-2-5に基づく」という付記がありますが、61000-2-5は電磁環境(受ける干渉)の分類であり、これ自体は規格ではないのでJIS化はされてないようです。最初に磁界と電界の強度、それから電界変化の速度と高調波のひずみ率(全高調波ひずみ率)があります。その次に信号電圧、それから電圧・周波数の変動、そして誘導電圧、トランジェントと記載されています。この項目だけ見るとどんな目的でこの項目が列挙されているかわかりませんね。ちょっと古いですが手元にIEC61000-2-5の初版(その昔はIEC1000シリーズといっていたもの)があるので見てみますと、製品が設置した環境から受ける電磁環境の具体例が書かれており、規格化のために「受ける電磁環境」を分類して、具体的な製品設置環境に対しどの電磁環境を組み合わせて、どれくらいの強度で試験すればよいかの指針が書かれています。

確かに、我々の生活環境には多種多様な電磁環境があり、すべてを試験することなど到底できないし、また無意味ですね。IEC61000-2-5ではこの受ける電磁環境を低周波現象、高周波現象、静電放電の3つに大きく分け、次にその発生源としてどんな現象があるのかを整理し、さらにそれぞれの電磁環境の強さを分類し、最後に代表的な環境における電磁環境の種別と強さの例が記載されています。JIS C60721の「電気および電磁妨害」の項目はこのIEC61000-2-5の電磁環境分類項目を記載したものになっているようですね。
なので、この環境項目の意味はIEC61000-2-5(以下面倒なので単にIEC規格とします)を参照することにします。

まず電磁環境の大きな3つの区分ですが、静電放電はいいですよね?特にこれからの冬場の乾燥時期は人間も静電気の「バチッ!」に悩まされますが、製品も同じですね。次に低周波と高周波の分かれ目ですが、IEC規格(の初版)では9KHzを境にしています。
低周波の電磁環境項目のうち、伝導についての項目は伝導高調波(≦3KHz:整流器入力を持つ種々の電子的負荷(家電とかPC等)で発生する小さな高調波と、可調速度駆動装置などの工業的負荷で発生する比較的大きな高調波)、電力システム中の搬送通信電圧(日本ではPLCといっている、コンセントを使った通信の波形電圧)、電力システムの電圧及び周波数変動(電源電圧そのものの電圧と周波数変動)、誘導された低周波電圧(電源ケーブル(電源電圧やその高調波電圧とカップリングして信号線などに誘起される誘導電圧)、交流回路網中の直流電圧(これは初版では審議中になっています。))などがあります。また低周波の放射環境については磁界(高圧線や変圧器、その他一般機器から発する浮遊磁界、電車や信号機から発する磁界、整流発電所付近の磁界など)、電界(高圧線や変電所の中で発生し、一般家庭内ではほぼ発生しないとしている)があります。

次に高周波の電磁環境項目にはまず伝導高調波があり、これは持続する電圧(いろいろな電気製品から電源線やグランドを介して持続的に発生する電圧)と過渡電圧(電源や機器の現用/予備の切り替えなどで生ずる振動的サージと、高圧線に落雷した時やヒューズ溶断の際に発生する高エネルギーサージと、どこかで静電気放電があった変動が伝わってくる急速サージなど)があります。

次に高周波の放射は振動性(持続波)放射妨害、パルス(過渡)放射妨害、非干渉性放射妨害に分けられていますが、非干渉性放射妨害は初版では詳細が記載されていません。持続性放射妨害は一般に使われている電波による影響のことで、周波数分類区分としては9Hzから27MHz(任意の発生器)、アマチュアラジオの全バンド、27MHz~1HGz(ポータブル無線機、CBなど)、1GHz~40GHz(すべての発生源)という分類になっています。いっぽう放射パルス妨害は200ms以上持続しない放射妨害とされ、持続中は10回以上極性を変えることはない、と書かれています。
パルス波って20ms以下で波形持続が10回以下という定義なんですね(今は変わっているかもしれませんが)。
このパルス波による影響は発生源からの距離に大きく依存するとも書かれています。典型的な発生源は落雷、ガス隔離された変電所の切断スイッチ、屋外変電所の切断スイッチ、高圧線の下での伝導雷サージや切り替え動作による誘導電圧などとなっています。

最後に静電放電ですが、静電気放電はまず充電された人やモノが製品に近づくと、コンデンサと同様に製品がまず充電され、次にその間に絶縁破壊が起きて電流が流れる、という現象なので、電圧だけでなく放電電流による影響もあり、また放電時に強い電磁界が発生して付近の装置にも影響する、という現象だと書かれています。言われてみればそうですが、静電放電は複雑ですね。

このIEC規格は最後に試験の不確定性について述べています。EMCのうちEMI(製品が出す電波の周波数と強度)は、出たものを測ればいいのでイミュニティに比べれば正確に測れて判定できますが、イミュニティ(その電磁環境に対する製品の耐力)を判定するには、まず正確で均一な電磁波やパルスを製品へ印加しなければなりませんが、そもそもこれが難しいですね。そのうえで製品の耐力を判定することになりますが、これって厳密にいえば製品の機能ごとに耐力を確認する必要があるので、同じ妨害を何度も製品に印加する必要があります。更にNGだった場合の原因追及には、印加された電磁妨害によりどこにどれだけの電流や電圧が加わったのかも確認する必要があるため、再現性を確保することが難しく、不確定性が大きい評価となりやすいです。このような場合の常とう手段は安全率を高めることですが、それは高コストへとつながります。
したがって製品のイミュニティ性能の明確化、および測定テクニックやノウハウを生かして不確定性の低減を目指すことは、そのまま低コスト化への道でもあるので、耐環境対応というのは測定ノウハウの蓄積もQCD向上のためには必要なことがわかります。

今回はJIS C60721の最後の項目である「電気および電磁妨害」について書いてみましたが、ほとんどIEC61000-2-5の内容の羅列で終わりました。でもたぶんこの内容はJISにもないし、イミュニティとはどんな環境を想定したものなのかを知る機会も少ないと思いますので、もし気になるようでしたらぜひ最新版を確認してみてください。


◆執筆者プロフィール------------------------------------------------------------------------------------------------------◆
藤田 哲也
株式会社ジィーサス 技術統括部 副統括部長 チーフテクニカルアドバイザー
 1981年沖電気工業(株)入社。無線伝送装置の実装設計、有線伝送装置の実装設計、および取りまとめを経て、
 2002年(株)ジィーサス入社。熱設計・EMC設計・実装技術のコンサルティングや教育に従事。
 2008年から回路・基板・実装に必要なトータル技術を提供する設計サービスに従事している。

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