熱対策と熱設計
2026.02.05
本記事では、これまで100社以上の電子機器の設計開発における熱設計導入、熱問題の解決をご支援してきた図研テックの視点から「熱設計の重要性と対策」について解説します。
連載記事一覧
<熱設計関連>
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- 電子機器の進化の要因と熱設計の変化
- 最近の熱問題とその傾向(1)
- プリント基板の熱設計ポイント
- 最近の熱問題とその傾向(2)
- 熱対策と熱設計 <本記事>
<EMC設計関連>
この記事の目次
本記事の執筆者:図研テック株式会社 上席技術監督 藤田 哲也(プロフィール)
図研テックでは、「試作後の実験で許容温度を大幅に超過、すぐに使える新たな対策アイデアが欲しい」「熱設計の手順が決まっていないため、新規製品開発で熱問題が起こりがち」「熱問題発生時に相談できる上司や専門家が不在/多忙過ぎて実質“不在”」といったお客様に、熱対策の技術的な支援と、熱設計プロセスの構築・標準化を中心とした業務改革の支援を行っています。
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はじめに
最近では「熱設計」という単語が一般的になってきましたが、過去には「熱問題は対策するもの」であって、設計後に対処するものとして扱われていました。
この“対策”から“設計”への変化は、現代の製品において同じ考え方で熱対策しようとすると、一から再設計せざるを得ない場面が多くなっているからではないでしょうか。今回はこの「熱対策」と「熱設計」の関係を改めて整理し、その本質について考えてみたいと思います。
「熱対策」→「熱対策設計」→「熱設計」
この記事のプロフィールにあるように、私は図研テックに勤める以前は、通信機器・通信装置のメーカに在籍していました。
メーカ在籍当時、入社2年目に熱に関連する技術教育があり、その教育講座のタイトルは「熱対策手法」といったものだったと思います。
この熱教育の初回は外部講師による講義でしたが、2回目からは、同じ会社にいた私の師匠である、国峯尚樹先生による社内教育でした。国峯先生は、師匠である伊藤謹司先生とともに、1992年に本を出版されましたが、そのタイトルもまた「トラブルをさけるための電子機器の熱対策設計(日刊工業新聞社)」でした。
このように、1980年代~1990年代には「熱は(設計後に)対策するもの」でしたが、時代とともに「熱対策のための設計」が必要になり、現代では「熱設計」が不可欠なものになっています。その背景には、これまでの連載で書いたように電子部品と製品の小型・高密度化や設計手法の変化などがあります。
シリアル設計からパラレル設計へ
私が設計をはじめた頃、1980年代の電子機器の設計は、はじめに回路設計者が実験等で評価しながら回路を作成し、その後で構造設計者が筐体を設計する、といったシリアル設計が主流でした。つまり、構造設計者(私もそうでしたが。)は、設計を始める前に、製品のどこがどれくらい熱くなるのか?がわかっていた、ということです。また、当時の電子機器は一般に筐体が大きく、熱問題であまり悩むことがなく、熱ければ筐体を大きくすれば良い、ということも可能でした。
加えて当時はEMCという考えも無く、電磁波が問題になるのは装置の自身への影響ぐらいだったので、装置が熱ければ筐体に大きな通風口を設ければよかった時代でした。
その後、生産性向上と効率化の名のもとにコンカレントエンジニアリング、つまりパラレル設計が採用されるようになります。このころから製品としてもソフトウェアによる機能制御が積極的に採用されるようになり、回路・構造・ソフトの3部門が1つの製品開発のための設計を同時にスタートするようになりました。
パラレル設計が採用されると、回路部門が先行して設計することで分かった熱問題を構造部門で対策する、という設計の進め方はできなくなります。また、パラレル設計の目的は、開発期間の短縮やコスト削減ですから、必然的に実験で求めていた温度を、計算やシミュレーションで予測するようになります。
さらに設計後半での対策設計が限界を迎えたことにより、設計のフロントローディング化が推進され始めました。
こうした設計スタイルの変化とともに、熱対策設計は熱設計へと変化しました。熱設計技術の必要性を広く認知させるために活動してきた諸先輩方や、関連機関の努力のおかげで、現在の考え方が定着してきたのだと思います。
なお、これは意外だったのですが、「熱設計」という考え方は日本が先行しているようで、諸外国の認識はまだ「熱は対策するもの」のようです。この辺りは、私も1人のエンジニアとして、熱設計の考え方が普及している日本発で規格化されることを願っています。
熱設計の本質
「熱設計の本質」と書いて、そういえば過去にそんな記事を書いたことがあるな、と思って検索すると、まだ記事が残っていました。
「熱ってどういうもの?」の基本を押さえよう MONOist (アイティメディア株式会社)
https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/0809/24/news131.html
当時の私は、「熱にまつわる問題は、熱を無くすのではなく、どう移動させるかという問題」と書いています。今から14年前の2012年に公開した記事ですが、今読み返してみても大きく間違ってはいないなと思っています。
私は実装設計・構造設計が専門なので、設計とは必要機能(指標)を満足させるために、具体化(物理的に実体化)する作業だと考えています。熱についても考え方は同じです。
2012年当時の私は、記事の中で熱と温度の関係について解説しています。つまり当時の私は、熱設計を「温度」を指標として説明すると、読者にもわかりやすいだろうと考えていたのではないか、と思います。(もう、細かいことは覚えていませんが。)
「温度」と「熱抵抗」 2つの指標
従来、熱対策の指標には温度が用いられていました。これは今でも変わりませんが、「温度を下げるためにファンを付ける」「温度を下げるためにヒートシンクを付ける」だけでは、どんなファン、どんなヒートシンクでも良いことになってしまいます。
お気づきの方も多いと思いますが、本質的にはそうではないですよね。具体的にどんなファン、どんなヒートシンクが必要なのか?を考えることが熱設計です。
この「どんな?」が現代の熱設計では重要な指標であり、その指標は「熱抵抗」です。
シリアル設計の頃には、試作品で温度を測定し、許容温度を超えていたら熱対策のためにファンやヒートシンクを取付けました。
その時にファンやヒートシンクをどうやって選定していたかというと、ファンは熱伝達率の簡易式から必要風量を計算し、ヒートシンクは熱伝達率の式から必要面積を計算していました。
計算結果をもとに選定したファンやヒートシンクを実機に取り付けて実験する、あるいは解析することで、問題箇所が許容温度以下になっているか?を確認する、といった流れです。これはこれで正しく、温度が最終指標であることは変わりありません。
しかし「ファンの場合は風量」「ヒートシンクの場合は面積」というように、設計に必要なパラメータの種類が多く、実際の設計ではこれを組み合わせて検討するので、もう少し総合的に検討できる指標があると便利です。
そこで「熱の流れも電気や水の流れと同じ」と考え、熱の流れやすさを熱コンダクタンス、その逆数である熱の流れにくさを熱抵抗、という指標にして、製品の放熱経路を熱抵抗網で考える「熱回路網法」という手法があります。ただし「熱回路網法」は、解を求めるために行列計算が必要であり、3次元モデルを使ったCAEツールと比べると利用難易度が高く、あまり設計の現場に普及している手法ではなかったと思います。
「熱回路網法」とモデルベースデザイン
このように熱抵抗を指標として扱いやすい反面、なかなか普及しにくかった「熱回路網法」ですが、この10年くらいの間に、自動車産業を中心として回路網法を利用したモデルベースデザインが普及しています。
形状を考えてから機能を検討する、という従来の機械設計手法ではなく、機能を先に設計し、その結果から構造を検討するという、回路設計と同じ手法が採用されるようになりました。
モデルベースデザインの何が便利かというと、製品の機能を理論式で表現することができることだと思います。
例えば、自動車をモデリングして計算(シミュレーション)した結果、「ブレーキの利きがよくない」という場合には、ブレーキの摩擦係数や面積の値(パラメータ)を変化させて結果を見ることが可能です。
3次元モデルを使ったCAEで同じことをするためには、3Dモデルやメッシュの再編集と再計算が必要になることを思うと、各段に設計効率が上がりそうです。
この他、モデルベースデザインは、実物を作る前に設計パラメータを決められたり、実物と機能モデルを組み合わせて検討するといったこと(HILSやMILSなど)が可能だったり、その機能モデルがそのままシミュレーション付き仕様書になる、といった点も大きなメリットなので、自動車のような製品で普及しているのだと思います。
このようにモデルベースデザインの普及で回路網法が利用されつつあることを背景に、小型・高密度化した電子機器では、放熱経路を詳細に決める必要が出てきたことなどから、熱抵抗を使って熱回路を検討するという手法が、より広く認知されていくのではないか、と予想しています。
温度と熱抵抗の指標としての違いは、温度は設計結果であり、熱抵抗は設計目標値であることです。
ヒートシンクの選定を例に考えてみると、最終的な温度は構造によって変化しますが、目標とする熱抵抗が分かっていれば、熱回路上でヒートシンクの効果を事前に把握できます。目標熱抵抗の値から、部品にどんなヒートシンクを選定する必要があるか?が明確になります。
このように熱抵抗は構成部品の放熱能力を表す指標としてだけでなく、RjcやRjbといった電子部品の放熱能力指標にも使われているので、熱の機能設計に必要不可欠なものとなっています。
まとめ
今回は、設計スタイルの変遷と熱の問題へのアプローチの変化について振り返ってみましたが、私は、現代の熱設計の本質とは、「熱抵抗と放熱経路の設計」だと考えています。
これは「熱をなくすのではなく、どう移動させるか」という考え方を、より具体的な設計手法として表現したものです。
熱抵抗を使うことで、放熱構造や放熱部品の設計・選択の目標値が明確になり、見通しの良い設計が可能になると思います。まだ体験したことのない方は、ぜひ検討してみてください。
図研テックの熱設計・対策を支援する「熱設計支援サービス」では、「熱回路網法」導入のご支援も承っています。また、熱設計のスキルアップを支援する「eZラーニング(イージーラーニング)」では、オープンソースのモデルベースデザインツールを使った「熱回路網法」(≒モデルベースデザイン)の演習講座をご提供しています。
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- 最近の熱問題とその傾向(1)
- プリント基板の熱設計ポイント
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- 熱対策と熱設計 <本記事>
<EMC設計関連>
この記事の執筆者
図研テック株式会社 上席技術監督 藤田 哲也
1981年 沖電気工業株式会社入社、消防・防衛・車載等の各種無線端末及び基地局、有線伝送装置の実装設計を担当。その後、基幹伝送装置・MPEG映像伝送装置などの伝送装置や端末装置の開発リーダーとして装置取りまとめに従事。2003年 株式会社ジィーサス(現、図研テック株式会社)に転職後は、実装技術支援サービスの立上を牽引し、デジタルカメラやテレビ、プロジェクター、カーナビゲーションシステムなど、さまざまな顧客の製品開発を支援。2014年 技術者教育サービス「熱設計講座」、熱設計コンサルティングを立ち上げ、2021年より現職。JEITA電子実装技術委員会 実装技術標準化専門委員会 サーマルマネジメント標準化グループ委員
著書
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- トコトンやさしい熱設計の本(日刊工業新聞社)
- 電子機器の熱流体解析入門(日刊工業新聞社)
- 最新熱設計手法と放熱対策技術(シーエムシー出版)
- 高熱伝導樹脂の設計・開発(シーエムシー出版)
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