ZUKEN TEC NEWS

パワエレにおけるノイズの伝わり方

これまで50社以上の電子機器の設計開発におけるEMC問題の解決をご支援してきた図研テックの視点で「パワーエレクトロニクスにおけるEMC実装設計」を連載テーマに、プリント基板(PCB)を中心に実装技術の要素を交えてEMC対策について解説します。

 

 

図研テックでは、「設計者によってEMC対策に対する考え方が異なるため、設計品質が安定しない」「開発テーマによって、EMC対策の効果の有無が変わるため、何から手を付ければ良いかわからない」「EMCに関する設計手順や基準が無いため、新規製品開発でEMC問題が起こりがち」といったお客様に、EMC対策の技術的な支援と、EMC設計プロセスの構築・標準化を中心とした業務改革の支援を行っています。→「設計・解析コンサルティング」サービス紹介ページ

 


 

はじめに

過去2回の記事では「パワエレにおけるEMCノイズ(前編後編)」と題して、パワーエレクトロニクス(以後、パワエレ)におけるEMCノイズの発生について解説してきました。今回は発生したノイズの伝わり方と、それをEMIノイズとして、どのように測定するかについて解説します。

 

伝導エミッションと放射エミッション

まずは基本的なことのおさらいです。EMI規格ではケーブルを伝わるノイズを測定する伝導エミッション測定と、空間上を伝わるノイズを測定する放射エミッション測定の2種類の測定方法があります。

測定方法の詳細については、各規格で取り決めがありますが、概ね以下の通りです。

<伝導エミッション測定>

  • 試験機器(EUT)と疑似電源回路網(LISN)をケーブルで接続、EUTの動作によって発生したノイズが、どの程度ケーブルを伝導して伝わるかをLISNに接続されるレシーバで測定する。
  • 試験機器(EUT)の電源ラインを疑似電源回路網(LISN)に接続して電源ケーブル上のノイズを測定する。
    (※ 一部の規格では通信線に対しても伝導ノイズ測定を行います。)

パワエレでは、電源ラインのノイズが伝導ノイズの主要因であるため、本記事では「電源ケーブル上のノイズを測定」について解説します。

<放射エミッション測定>

  • 試験機器(EUT)をターンテーブルなどの上に配置し、EUTの動作で発生した放射ノイズを、所定の位置・高さに配置した受信アンテナで測定する。
    (※ 規格によって、EUTの配置方法やアンテナの位置・種別などが異なります。)

 

伝導エミッション ―パワエレの場合―

パワエレにおける伝導エミッションについては、この連載の「パワエレにおけるEMCノイズ(前編後編)」で詳しく解説しました。その内容をまとめると、次の表のように整理できます。

伝導エミッションのまとめ

伝導エミッションのまとめ

ノーマルモードノイズの発生要因と対策については、比較的、理解しやすい内容だと思います。一方で、コモンモードノイズの発生要因と対策は複雑であるため、実際の製品設計においてもお困りの方が多い問題ではないでしょうか?

コモンモードノイズの特徴は、第4回の記事で解説した通り、スイッチング動作によって生じたdv/dtが、インピーダンスが低く、電流が通りやすい経路を通っている、とシンプルに考えて、その経路をつきとめ、流れる電流を少なくするのが基本的な対策です。

 

放射エミッション ―パワエレの場合―

一般に放射ノイズは、回路動作に伴って形成される電流経路がアンテナとして機能し、電磁波が放射されることが主な要因です。

本記事では、パワエレの動作による電流経路が、どのように放射ノイズとなるか?について、ノーマルモードとコモンモードに分けて解説を進めていきます。

尚、EMCにおけるアンテナについてはこちらの過去記事もご参照ください。

<ノーマルモード電流による放射ノイズ>

ノーマルモードノイズについては、第3回の記事でも説明した通り、2線に逆向きの方向に流れる電流(=ノーマルモード電流)がループ状となった場合、そのループを貫く磁束変化により放射ノイズが発生します。

ただし、実際のパワエレ機器設計では、電源ラインなど、ノーマルモード電流経路のほとんどは並走しているため、ループ電流は殆ど発生せず、放射ノイズの要因とはなりにくいのではないでしょうか。

ノーマルモードノイズ電流による放射ノイズ

ノーマルモードノイズ電流による放射ノイズ

<コモンモード電流による放射ノイズ>

「実際のパワエレ機器設計ではノーマルモード電流が放射ノイズの要因となりにくいのではないか?」を、逆の視点で見ると「実際のパワエレ機器設計における放射ノイズの主要因はコモンモード電流によるもの」と考えることができそうです。

コモンモード電流が放射ノイズとなる要因は、ループ状に流れるコモンモード電流ですが、放射ノイズが発生するメカニズムは、ノーマルモード電流のそれとは少々異なります。
その違いについて、少し長くなりますが、ループ長と波長の関係を元に整理してみます。

・ループ長<λ/10の場合

コモンモード電流のループ長が波長に比べて十分に短い場合、ループ内の電流分布がほぼ一定となるため、ループ内を貫く磁束もその電流に応じて変化します。
そのため、ループ内の電流変化に応じて磁束も一様に変化が起こることで、磁界成分を主として電磁波が放射されます。

・λ/10<ループ長<λ/4の場合

ループ長がλ/10より大きくなると、ループ内の電流分布が一様でなくなり、磁界アンテナとしての働きが弱くなります。また、それに伴い、電流の位相分布が無視できなくなり、電界成分での電磁波放射が支配的となります。
ただ、この領域では磁界成分も無視できないため、電界・磁界成分が混在したような状態の電磁波となります。

・ループ長 > λ/4の場合

ループ長がλ/4を超えてくると、電界成分が支配的となり、ほぼ電界アンテナ的に電磁波を放射します。
電界アンテナの放射強度は、共振点を除きアンテナ長に依存するため、ループ長が長くなるほど、たくさんの電磁波が発生します。
ただし、λ/2の長さで共振して極大となり、その後、ループ長=λで極小、3/2λで再び極大となります。

ここまでの説明で、勘の鋭い方は、ループアンテナにおいて、ループ長が1波長となった場合に、λ/2のダイポールアンテナがつながったような状態で共振し、放射効率が一番高くなる現象と矛盾しているように感じるのではないでしょうか。
一見矛盾した内容なのですが、コモンモード電流のループは、単純かつ理想的なループ形状の導体と異なり、信号線や筐体、アースが浮遊容量でつながった結果、実質的に両端が開放されたダイポールアンテナのように振舞うことで、λ/2の条件で共振して電磁波を放射します。

ここで重要なことは、共振長が“いくつ”ということでなく、ループ長が長くなることにより、微小ループの場合に比べて非常に大きな電磁波(=放射ノイズ)が発生する事実です。

 

まとめ

ここまでの内容をまとめると、ループ長が波長より十分短い場合、磁界成分が主となる電磁波が生じ、ループ長が長くなるにつれて電界成分が支配的となります。

また、それに伴って電磁波も強くなり、ループ長がλ/2の時に極大となります。グラフにすると以下のようになります。

コモンモード電流のループ長と放射電界強度

コモンモード電流のループ長と放射電界強度

このグラフは近似計算によって算出した値を使っているため、実際の電磁波の挙動と異なるところもありますが、重要なのはループ長がλ/2までは長くなるほど放射ノイズが大きくなり、その後も共振長付近でまた大きくなるということです。

第4回の記事の通り、コモンモードノイズの怖さは、電流ループがどこを通って形成されているか?が把握し難く、結果としてアースなどを介した巨大な電流ループが生じることで、ここまで解説してきた原理によって、大きな放射ノイズを発生することです。

実際のパワエレ製品の設計において、この電流経路を制御することは非常に難しいため、コモンモード電流による放射ノイズの対策は、大きなループを発生させないように浮遊容量を減らす、Yコンデンサなどでループをバイパスさせる、といったアプローチが考えられます。

これらのアプローチは、正に「言うは易く行うは難し」なので、次回はここまで解説してきた原理・原則に基づいて、実際のパワエレ製品の回路設計のおけるノイズの発生要因と対策について解説します。

 

 


この記事の執筆者

図研テック株式会社 技術監督 古瀬 利之
iNARTE EMC Master Design Engineer (Certificate No.EMCD-00243-ME)

1999年株式会社図研プロセスデザイン研究所(現、図研テック株式会社)に入社。
EMC設計・対策、高速半導体用インターポーザ、携帯電話用PCBを中心に電気設計業務を担当。
2014年よりEMC設計支援サービスやEMC設計教育サービスを立ち上げ、2021年より現職。

    • KEC関西電子工業振興センター
      iNARTE EMC設計技術者資格試験問題作成部会委員(2016-2018)
    • KEC関西電子工業振興センター主催 設計者向けEMC技術講座
      「EMC設計におけるフロントローディングとデザインレビュー」
      講師(2016-2019)
    • 環境電磁工学研究会(EMCJ)主催
      第14回 EMC基礎ワークショップ 講師(2018)
    • ポリテクセンター中部主催
      ディジタル回路のEMC実践技術講座 講師(2021-)
    • 第31回エレクトロニクス実装学会春季講演大会
      講演大会優秀賞受賞
      受賞講演「部品内蔵基板設計におけるCAE活用と、テスト容易化設計技術の展望」

 

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