ZUKEN TEC NEWS

エレキ・メカ設計者の育成・研修の課題とは?

これまで50社以上の電子機器の設計開発におけるEMC問題の解決をご支援してきた図研テックの視点で「パワーエレクトロニクスにおけるEMC実装設計」を連載テーマに、プリント基板(PCB)を中心に実装技術の要素を交えてEMC対策について解説します。

 

 


 

はじめに

前回は、絶縁型DC-DCコンバータにおけるノイズと基板レイアウトの前編として、フライバックコンバータとフォワードコンバータを例にして、回路の特徴とノイズ源となる高dv/dt、高di/dtの把握について解説しました。

引き続き、具体的なレイアウトやノイズ対策について書き進める予定でしたが、今回は少し脱線して、パワーエレクトロニクスをはじめ、エレキ・メカ設計者のスキルアップ=育成・研修の課題と改善の方向性について執筆したいと思います。


本記事に関連する提供サービスは、以下のリンクから詳しい資料をご覧いただけます。
『技術者教育サービス』・『EMC設計支援サービス』資料をダウンロード


 

お客様の悩みは技術課題だけではない

「脱線」のきっかけは、2026年5月28日(木)に、弊社が加盟している日本実装技術振興協会の定例講演会に登壇する機会をいただいたことでした。

図研テックからは、私古瀬と熱設計の連載をしている藤田より、AIサーバーや電気自動車のパワーコントロールユニットなどに代表されるように、大容量・大電流を扱うプリント基板が増えていることを背景とした「プリント基板の熱・EMC設計のポイント」と題した技術解説と、弊社がご提供しているサービスの概要、ご支援事例などをお話しました。

「プリント基板の熱・EMC設計のポイント」をお話する背景

「プリント基板の熱・EMC設計のポイント」をお話する背景

EMC問題の違い ~デジタル機器とパワーエレクトロニクス

EMC問題の違い ~デジタル機器とパワーエレクトロニクス

講演会後の懇親会では、聴講いただいた様々な企業のご担当者様とお話する時間を持つことができました。技術的なテーマでは、色々と教えていただくこともあり、個人的に貴重な機会となりました。また、製品開発における技術的な課題と共に、設計者の育成や技術継承に関するお悩みをお持ちのご担当者様が、多数いらっしゃったことが印象的でした。

パワエレのEMC対策が難しい理由

パワエレのEMC対策が難しい理由

パワエレにおけるdv/dtとコモンモードノイズ

パワエレにおけるdv/dtとコモンモードノイズ

これらは、当日の講演資料の一部です。
デジタル機器とパワーエレクトロニクスのEMC問題の違い、パワーエレクトロニクスのEMC対策が難しく感じる理由について要点を整理させていただきました。お話した内容は、本連載を下敷きにしています。ご興味を持っていただけた方は、ぜひ過去記事もご覧ください。

 

アンケート調査

「そこで」というわけではありませんが、並行して弊社で企画していたオンラインセミナー「基礎から学ぶパワーエレクトロニクスのEMC ~開発でハマらないための電磁ノイズの基礎知識~」(2026年7月9日(木)開催。こちらは、弊社が一昨年来、学術指導をお願いしている横浜国立大学の小原准教授に登壇をお願いしたセミナーです。)にご参加いただいたお客様に回答をお願いするアンケートで、エレキ・メカ設計者の育成・研修の課題について、率直にお尋ねしてみることにしました。

回答をお願いしたアンケートの設問は、以下の通りです。

  • Q. 現在、貴社内でエレキ・メカ設計者(ハードウェア設計者)向けにOFF-JTの取り組みはありますか?
    ※ OFF-JT(Off-the-Job Training):日常業務を離れて、集合研修やeラーニングを通じて専門知識やスキルを学ぶこと
    • A.「ある」(OFF-JTを実施している)と「ない」(OFF-JTを実施していない)の二者択一、「ある」の場合は次の設問へ
  • Q.現在、貴社で実施しているOFF-JTの実施形態を教えてください。
    • A. 以下の選択肢から複数回答
    • □ 社内講師による集合研修
    • □ 社外講師を招聘した集合研修
    • □ 社外セミナーの受講(オンライン/オフライン)
    • □ 有志の勉強会やワーキンググループ
    • □ eラーニングの導入
    • □ その他

前置きが長くなってしまいましたが、本稿の本題、このアンケートに対する232名様の回答結果をもとに、エレキ・メカ設計者の育成・研修におけるOJT・OFF-JTの現状と、これからの改善の方向性について考察してみます。

 

約4割が「OFF-JTを実施している」

以下の通り、41%・94名の方が自社で何らかのOFF-JTが実施している、と回答いただきました。
本稿をご覧いただいている皆様の実感(予想)との乖離はあるでしょうか?

OFF-JT施策の有無

OFF-JT施策の有無

続いて、OFF-JTの実施形態についての回答です。
回答は複数選択可、グラフはOFF-JT施策が「ある」と回答した94名中の割合で作成しています。

OFF-JTの実施形態

OFF-JTの実施形態

OFF-JTが「ある」と回答した41%・94名のうち、最も回答多かったのは「社外セミナーの受講」(67%・63名)でした。

社外セミナーは、目的に合致したものが見つかれば、

  • 最新のテーマや技術トレンドに触れやすい
  • 専門性の高い講師から短時間で学べる
  • 教材や場所の準備など自社内の業務負荷が低い

といった特徴があるため、導入しやすいOFF-JT施策だと言えます。
(少人数で参加すれば、コストも比較的軽く済む、というメリットもあると思います。)

一方で、組織(企業)側から見ると、

  • 学習内容が受講者個人に留まりやすい
  • 受講後の変化が把握し難い
  • 必要なタイミングで必要な人が受講できるとは限らない

といった課題が考えられます。

2番目に多かった回答は、「社内講師による集合研修」(48名・51%)でした。

自社製品の特長や設計ノウハウに基づいた研修ができることが最大の利点である一方、講師を担当するベテラン社員=“教える側”には、研修内容の検討にはじまり、教材・テキストの作成などの負荷がかかり過ぎてしてしまう、といった問題が考えられます。
見方によっては、設計現場で現物や図面、実験データをもとに対話をしながら後進を育成するOJTよりも“教える側”の負荷は高くなってしまうことも想像できます。

なお、この“教える側”への負荷集中は、冒頭でご紹介した実装技術振興協会の定例講演会の際に伺った「育成のお悩み」の代表的なもののひとつです。

 

エレキ・メカ設計者の育成は“難しい”

エレキ・メカ設計者の育成

エレキ・メカ設計者の育成

エレキ・メカ設計(ハードウェア設計)の現場には、明文化しにくい知識が数多く存在します。

たとえば、設計レビューで何を見るべきか、過去トラブルをどのように現在の設計テーマに反映するか、製造部門など他部門とどのようにすり合わせるか、といった知見は、経験豊富な設計者の中に暗黙知として蓄積されていることが少なくありません。

こうした知識は非常に価値があります。しかし、特定の人に依存した状態が続くと、若手の立ち上がりや設計品質の安定化、技術継承に課題が生じやすくなります。

パワーエレクトロニクスのような領域では、回路、制御、パワー半導体、熱、EMC、実装といった複数分野が関係します。そのため、個々の設計者が自分の担当領域だけを理解していればよい、という状況ではなくなりつつあります。

エレキ・メカ設計者の育成では、現場で経験を積むこと(OJT)に加えて、実務の前提となる共通知識の標準化(OFF-JT)が重要ではないでしょうか?

 

OJTも“難しく”なっている?

ここでOJTが機能する前提条件について考えてみます。

エレキ・メカ設計者の育成がOJT中心になることは、自分自身の経験を振り返ってみても、設計現場の実情に合った自然な形だと思います。設計業務には、教科書どおりには進められない判断が数多く存在しています。

  • 顧客要求への対応
  • 製品仕様ごとの制約条件
  • 製造工程とのすり合わせ
  • 不具合発生時の原因切り分け
  • 設計レビューでのリスク判断

これらは実際の設計テーマを通じて学ぶことで理解が深まる領域です。

OJTは実務を通じて必要な知識やスキルを身につける育成方法であり、即戦力化や現場に即した学習に強みがあります。つまり、OJTはこれまで多くの設計現場で合理的に機能してきた育成方法です。現在の設計品質や開発力も、こうした現場での育成の積み重ねに支えられている面があります。

一方で、OJTが機能する条件は「必要な経験を現場で積めること」です。
近年は、設計現場を取り巻く環境が変化しているとも伺います。

  • 開発期間の短縮
  • 品質要求の高度化
  • 分業化の進展
  • ベテラン人材の減少
  • 試作・評価機会の制約

こうした変化は、設計者が試行錯誤しながら経験を積む機会が従来よりも少なくなる変化です。これらの変化点が、様々な企業で設計者の育成や技術継承に関するお悩みにつながっているのではないでしょうか。

ここで重要なのは、設計者の育成や技術継承に課題があっても、個人の能力や意欲の問題として捉えないことです。問題は、学習機会の構造が変化していることにあります。

従来: 経験  → <理解> → 定着
現在:<理解> →  経験  → 定着

OJTも“難しく”なっている?

OJTも“難しく”なっている?

特に、パワーエレクトロニクスのように複数領域が関係するテーマでは、経験に基づいて基礎知識を理解し、その上で実務へ定着させる。といった、従来型の学習機会を維持するためには、想像以上に時間もコストも必要です。

設計現場の環境変化を所与の条件としたうえで、OJTをより効果的に機能させるためのOFF-JTが重要になると考えます。

 

OFF-JTの課題は「継続性」と「再現性」

今回のアンケート回答からは、OFF-JTを実施している企業の多くが、社外セミナーや集合研修を活用していることが分かりました。これらの施策は、専門知識を短期間で学ぶ方法として有効です。

一方で、設計者教育を組織的な取り組みにしていくためには、学習内容を継続的に活用できる仕組みも必要になります。

自分自身の経験を振り返ってみても(“教える側”としても“教えられる側”としても)設計者の育成で重要なことは、一度学んで終わりにしないことです。特に、パワーエレクトロニクスのように複合的な理解が必要な分野では、反復学習や参照しやすい教材の存在が、実務への定着を支えます。

 

「eラーニング」という選択肢

今回のアンケートでは、OFF-JT実施していると回答した方のうち38%が、自社でeラーニングを導入していると回答しています。

OFF-JTの実施形態

OFF-JTの実施形態

その他のOFF-JT施策と比較すると「継続性」と「再現性」の観点では、eラーニングは有効な選択肢と考えることができます。

施策 特徴
社外セミナー 専門知識やトレンドを短期間で学びやすい
集合研修 講師や受講者同士の対話を通じて理解を深めやすい
勉強会・ワーキンググループ 社内ノウハウを共有しやすい
eラーニング 反復学習や拠点横断の教育に活用しやすい

 

eラーニングには、以下のメリットがあります。

  • 必要なタイミングで受講しやすい
  • 繰り返し学習できる
  • 拠点や部署をまたいで教育内容を揃えやすい

一方で、集合研修(特に社内講師を立てて行う場合)や勉強会・ワーキンググループと比べると、実務やOJTとの接続性については、自社の設計現場の状況を鑑みて運用面での工夫が必要です。また、教材を全て内製する、となると“教える側”への負荷集中の問題に突き当たってしまいます。

 

まとめ

今回のアンケート結果では、設計者向けOFF-JTを実施していない企業が60%、実施している企業が40%という結果でした。

この結果から見えてくることは、設計者の育成・研修において、OJTが依然として中心的な役割を担っているという現実です。OJTには、実務を通じて自社の製品開発に必要な知識、ノウハウ、判断力を育てられる大きな強みがあります。その価値は今後も変わらないと思います。

一方で、製品の高度化や設計現場の環境(=学習機会)の変化によって、OJTだけではカバーしにくい領域も広がっています。特に、パワーエレクトロニクスのような複合的な技術テーマでは、事前学習や反復学習の仕組みが、設計者の理解を支える重要な役割を果たすのではないでしょうか?

OJTの強みを活かすために、何をOFF-JTで補完するか。
また、OFF-JT施策は、何を・どこまで自社で準備するか。

この視点を持つことで、若手設計者の立ち上がり支援、ベテラン知見の共有、技術継承の促進につながるメカ・エレキ設計者の育成・研修施策を検討しやすくなると考えます。

まずは、自社の設計者育成・研修において、どの領域が属人化しているのか、どのテーマから学習機会を整備するべきかを見直すところから始めてみてはいかがでしょうか。

 

関連情報

図研テックがご提供している各サービスが、ご検討材料になれば幸いです。

  • 「パワーエレクトロニクスの基礎講座」「eZラーニング」の概要資料をダウンロード
    → 「回路設計講座カリキュラム」の中に掲載しています。
  • 「EMC設計コンサルティング」の概要資料をダウンロード
    → コンサルティング、設計支援の一環として、過去トラブルの整理やDR項目の棚卸は、ご相談が多いテーマのひとつです。

ご興味を持っていただけましたら、是非、オンライン/オフラインでお話させてください。
お問合せフォームから「EMC設計コンサルティングに興味あり」とお申し付けください。)

 

 


この記事の執筆者

図研テック株式会社 技術監督 古瀬 利之
iNARTE EMC Master Design Engineer (Certificate No.EMCD-00243-ME)

1999年株式会社図研プロセスデザイン研究所(現、図研テック株式会社)に入社。
EMC設計・対策、高速半導体用インターポーザ、携帯電話用PCBを中心に電気設計業務を担当。
2014年よりEMC設計支援サービスやEMC設計教育サービスを立ち上げ、2021年より現職。

    • KEC関西電子工業振興センター
      iNARTE EMC設計技術者資格試験問題作成部会委員(2016-2018)
    • KEC関西電子工業振興センター主催 設計者向けEMC技術講座
      「EMC設計におけるフロントローディングとデザインレビュー」
      講師(2016-2019)
    • 環境電磁工学研究会(EMCJ)主催
      第14回 EMC基礎ワークショップ 講師(2018)
    • ポリテクセンター中部主催
      ディジタル回路のEMC実践技術講座 講師(2021-)
    • 第31回エレクトロニクス実装学会春季講演大会
      講演大会優秀賞受賞
      受賞講演「部品内蔵基板設計におけるCAE活用と、テスト容易化設計技術の展望」