熱設計の進め方
2026.10.20
本記事では、これまで100社以上の電子機器の設計開発における熱設計導入、熱問題の解決をご支援してきた図研テックの視点から「熱設計の重要性と対策」について解説します。
連載記事一覧
<熱設計関連>
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- 電子機器の進化の要因と熱設計の変化
- 最近の熱問題とその傾向(1)
- プリント基板の熱設計ポイント
- 最近の熱問題とその傾向(2)
- 熱対策と熱設計
- 熱設計の進め方 <本記事>
<EMC設計関連>
この記事の目次
本記事の執筆者:図研テック株式会社 上席技術監督 藤田 哲也(プロフィール)
図研テックでは、「試作後の実験で許容温度を大幅に超過、すぐに使える新たな対策アイデアが欲しい」「熱設計の手順が決まっていないため、新規製品開発で熱問題が起こりがち」「熱問題発生時に相談できる上司や専門家が不在/多忙過ぎて実質“不在”」といったお客様に、熱対策の技術的な支援と、熱設計プロセスの構築・標準化を中心とした業務改革の支援を行っています。
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はじめに
前回の記事では、大まかに1980年代から現在までの電子機器の設計プロセスの変化と、熱設計指針の変化を説明しました。今回はそれを踏まえて、熱設計に必要な情報や回路設計と構造設計の役割分担など、具体的な進め方について、改めて整理してみたいと思います。
熱設計に必要な情報
前回の記事で、現代の熱設計の本質は「熱抵抗と放熱経路の設計」と表現しましたが、より正確に表現すると熱設計に必要な情報は熱抵抗と放熱経路だけではありません。
熱設計の本来の目的は、温度制限のある電子部品や製品の表面などの場所の温度を、温度制限以下にするために、熱を移動させることです。このためには「移動させるべき熱量」と、「制限温度」を把握する必要があります。
このうち「移動させるべき熱量」は電子部品などの消費電力です。1ワット=1ジュール/秒なので、消費電力10ワットの電子部品は1秒間に10ジュールの熱を作り出します。「制限温度」は、電子部品の場合は仕様書に記載してある「動作保証温度」がそれに該当します。
電子部品の仕様書にはもう一つ「保存温度」がありますが、これはその電子部品が発熱しない状態での許容温度です。
ここで、熱量の移動と制限温度について、改めてイメージしてみます。
電子機器の電源を入れる前は、電子部品の温度は周囲空気温度と同一です。スイッチを入れると電子部品が発熱しはじめます。熱は温度差で移動するので、スイッチを入れた瞬間には熱は移動しません。すると熱は電子部品に溜まっていくことになりますが、その溜まり具合はその電子部品の熱容量(その部品の温度を1℃上昇させるのに必要な熱量)によって変わります。
熱が溜まると電子部品の温度が上がり、周囲空気と温度差ができることで、はじめて熱が周囲の空気に流れ始めます。電子部品と周囲空気の温度差は時間とともに変化し、流入熱量と流出熱量がバランスしたところの温度で安定します。
つまり電子部品の温度は発熱量、放熱量と熱容量が関係することになります。
「動作保証温度」が守れるかどうか?など、一定温度になった時だけを考える場合は、熱容量による時間的温度変化は考えずに検討します。
一方で、最近の電子機器は時間とともに変化する温度上昇を把握して、制御する必要があるため、熱容量も熱設計条件として重要になっています。ひと昔前に比べると、長時間の動画撮影時にカメラが停止してしまう、ということが少なくなっていることを思い出してみていただければ、分かりやすいのではないでしょうか。
熱設計に必要な情報は
- 制限温度
- 発熱量および放熱経路と熱抵抗
- 熱容量(温度上昇の時間変化を検討する場合)
と整理できます。
役割ごとに違う熱設計
実際の製品設計においては、熱設計の役割が回路設計部門、構造設計部門、ソフトウェア設計部門で異なります。
理想的には一人の設計担当者が回路・構造・ソフトの設計知識を持ってシームレスに熱設計を行うことですが、複雑な電子機器の製品設計では現実的ではありません。
しかし、熱設計やEMC設計のように分野横断的な課題に対応するには、それぞれの設計部門が協力し合うことが必要です。そのためには関連部門が実施する設計内容をある程度把握しておくことも大切です。
そこで、回路・構造・ソフトウェア設計の各部門が一般的にどのような熱設計を行うのかを説明します
回路設計部門の熱設計
回路設計部門では、機能実現に必要な回路を設計し、回路に必要な電子部品を選択します。回路設計における熱設計は電子部品の選択から始まります。なぜなら「移動させるべき熱量」と「制限温度」は、電子部品の選択で決まるからです。
回路設計者は機能とQCD(品質・コスト・供給性)などで電子部品を選択しますが、それに加えて熱設計上の要求も考慮する必要があります。まずは、選択しようとしている部品が稼働時に何℃ぐらいになるのかを把握しなくてはなりません。
この温度を把握するために、その部品の放熱経路上の熱抵抗Rと、発熱量Q、それに放熱先の温度Taが必要です。このうち最終的な放熱先の温度、例えばその装置の設置環境温度は、その装置の動作保証温度として仕様策定時に決めますが、その他の熱抵抗Rと消費電力Qは設計を進めないと求めることができません。
半導体部品の場合の仕様書に記載されている熱抵抗RjcやRjb、Rjaなどは、一定条件下における部品のみの熱抵抗なので、それだけでは温度計算ができません。このため回路設計では、まず必要機能とQCDから部品を選択し、回路設計を行いながら各部品の消費電力を算出します。
部品の仕様や基板レイアウト情報などとともに構造設計者と情報を共有しながら温度計算を行い、どうしても部品の許容温度を超えるようならば、部品の再選択や機能の見直しなどを行って「移動させるべき熱量」と「制限温度」を調整するのが回路設計部門における熱設計です。
構造設計部門の熱設計
一般に電子機器は、電子回路の保護と安全性確保のために筐体に収容します。熱設計の視点では、この筐体が電子部品や基板から出た熱を周囲空気へ逃げにくくしています。つまり筐体自体が大きな熱抵抗となっています。
このため「熱抵抗と放熱経路の設計」は構造設計部門で担うのが一般的です。
またファンやヒートシンクといった放熱部品は、それを収容したり、機能を十分発揮させるための構造設計が必要になることに加え、前述の通り、熱容量は構造部品の材質(密度、比熱)と体積が関係します。そういった観点からも熱設計において構造設計者の役割は大きなものとなっています。
構造設計者は、機構的な機能や用途・使い方・デザイン・強度などを考慮しながら構造を設計します。加えて、構造部品の形状、材質、締結方法や表面処理などが「熱抵抗と放熱経路」を決めることになるため、常に「熱抵抗と放熱経路」も意識しながら設計を進めなければなりません。
そのためには「移動させるべき熱量」と「制限温度」を知る必要があり、回路設計と同時並行に設計を進めるコンカレント設計では、常に回路設計部門と密に情報交換しながら設計する必要があります。
先ほど筐体自体が大きな熱抵抗となっていると書きましたが、設計によっては筐体を大きなヒートシンクとすることも可能です。構造設計は必要機能を形にする設計なので、まず熱を含めて必要機能を把握し、形を設計するための条件を整理することが重要です。
自動車関連の設計などで利用されているモデルベースデザインは、この必要機能を可視化して設計する手法です。回路設計におけるSPICEのような役割であり、特に熱設計のように「熱抵抗と放熱経路の設計」には有効な手段です。
設計担当者としてみれば設計負担が増えるように感じられ、経営者からは余計なコスト・工数と見えるかもしれませんが、長期的に見れば設計効率化と属人技術のデータベース化が可能な手法なので、私は、モデルベースデザインを電子機器メーカでも導入すべきだと思っています。
ソフトウェア設計部門の熱設計
現代の電子機器は大半の機能をソフトウェアでコントロールしています。そのため、機器の発熱量もソフトウェアでコントロールすることになります。ハードウェアをコントロールするためのソフト(=ファームウェア)は、ひと昔前は回路設計部門が設計していました。言うまでもなく、現在は、組み込みシステムなどが発展し、ハードウェアをコントロールするソフトもソフトウェア部門で設計することが当たり前だと思います。
スマートフォンを例に考えてみると、動画を撮影しながらリアルタイムにインターネット配信するといったことが普通にできてしまいますが、機能的には画像処理と通信を同時に行っているため、消費電力は膨大になり、長時間配信をするとスマートフォンを持てなくなるぐらい熱くなります。
各種の規格に則って、スマートフォンの表面温度を一様に制限すると、リアルタイム配信の機能そのものを制限することになってしまいます。
そこで最近のスマートフォンでは、温度と時間がセットで仕様化されており、それがそのまま安全規格に反映されています。
例えばJIS C62368-1では、
- 1秒未満
- 1秒~10秒未満
- 1分以上
の4段階で温度限度値を決めています。
このためスマートフォンなどでは電子部品や基板に温度計を組み込んで、各所の温度が上限を超えると一部機能を制限したり、クロック周波数を下げたりして一時的に発熱量を制限しています。
これらの動作はソフトウェアで実現しているため、ソフトウェア部門でも熱設計に関する知識を持っておく必要があります。私は機械設計者なので、あまり詳しく解説することはできませんが、仮にスマートフォンの基板に実装したサーミスタ温度計で温度を測定しているとして、温度上昇が基板上の電子部品の発熱量上昇なのか、それとも使用している環境の温度=気温が上昇したためなのかで伝熱経路が異なります。そこで、ケース表面温度を下げるために、どの機能を制限すべきなのかは、温度とともに機能の動作状況なども勘案した制御が必要になります。
このような場合は回路・構造・ソフトの各設計者が共同で方策を考え、各部門で実現すべき機能を明確化したうえで設計する必要があり、ソフトウェア設計者も熱設計の考え方を把握しておかなければなりません。
まとめ
今回は熱設計の進め方を回路設計・構造設計・ソフトウェア設計のそれぞれの立場で見てきました。電子機器が複雑になると、熱やノイズといったエネルギー対応設計をシステム設計として捉えることが重要です。
そのためプロジェクトリーダーのように、システムをまとめ上げる存在がますます重要になっていると考えます。皆さんもぜひ、自分の設計を一歩引いた広い視点で見渡せる設計者になっていただきたいと思います。
次回は、近年の電子機器設計において熱設計条件として重要になってきている「熱容量」についての考察をする予定です。
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<熱設計関連>
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- 電子機器の進化の要因と熱設計の変化
- 最近の熱問題とその傾向(1)
- プリント基板の熱設計ポイント
- 最近の熱問題とその傾向(2)
- 熱対策と熱設計
- 熱設計の進め方 <本記事>
<EMC設計関連>
この記事の執筆者
図研テック株式会社 上席技術監督 藤田 哲也
1981年 沖電気工業株式会社入社、消防・防衛・車載等の各種無線端末及び基地局、有線伝送装置の実装設計を担当。その後、基幹伝送装置・MPEG映像伝送装置などの伝送装置や端末装置の開発リーダーとして装置取りまとめに従事。2003年 株式会社ジィーサス(現、図研テック株式会社)に転職後は、実装技術支援サービスの立上を牽引し、デジタルカメラやテレビ、プロジェクター、カーナビゲーションシステムなど、さまざまな顧客の製品開発を支援。2014年 技術者教育サービス「熱設計講座」、熱設計コンサルティングを立ち上げ、2021年より現職。JEITA電子実装技術委員会 実装技術標準化専門委員会 サーマルマネジメント標準化グループ委員
著書
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- トコトンやさしい熱設計の本(日刊工業新聞社)
- 電子機器の熱流体解析入門(日刊工業新聞社)
- 最新熱設計手法と放熱対策技術(シーエムシー出版)
- 高熱伝導樹脂の設計・開発(シーエムシー出版)
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