EMC設計のポイント2 性能の悪いアンテナのつくり方
2020.04.17
図研テックのEMCエンジニアが、EMC設計のポイントを全6回に渡り解説しています。
前回はクーロンの法則から、電磁波が出にくくなる方法について説明しました。回路内のクーロン力をなるべく強くするということでしたね。そして、一番クーロン力が弱い、つまり、電磁波が放射しやすくなるのが「ダイポールアンテナ」と呼ばれる回路の2本の信号線を180°に開いたものであるということまでお話ししました。
今回はダイポールアンテナにフォーカスを当てて、一番効率よく電波を放射するアンテナ構造から逆に、電磁波を出しにくいアンテナを考えてみましょう。通信系のエンジニアの方が見たら怒られてしまいそうな記事のタイトルですが(汗)、題して「性能の悪いアンテナを作ろう!」ということで書いていきたいと思います。
1.ダイポールアンテナとは?
ダイポールアンテナとは2つ(di)、極(pole)のアンテナということで、はい、見たまんまですね(笑)
この連載はアンテナの解説をしているわけではないので、細かい話は抜きにして、ダイポールアンテナからどのように電磁波が放射しているのかを考えてみます。
まずは短いダイポールアンテナで考えてみましょう。交流電源に2本の短い導体をつないで電流を流します。その時の電気力線の時間変化を見てみましょう。
- 電源を入れる前(電流0)。
- 電源ONで電荷の移動が始まり、電気力線ができる。
- 電気力線が伸びる。
- 伸びきれなくなると電荷が電源を通して結合し、電気力線はループとなる。⇒電界放射
- 交流なのでプラスとマイナスが入れ替わり、向きが逆で②から④までと同じように電気力線ができる。
とても単純化した図になりますが、このようにして電界が放射されます。イメージはできたでしょうか?
では、ダイポールアンテナから最も効率よく電磁波が発生させるには、極(pole)の長さをどれくらいにしたら良いでしょうか?
結論から言うと、共振現象が起こる長さ、つまり、電磁波の波長の1/4の長さの時です。電磁波は波動ですので、その導体の長さが伝わっている電磁波の波長の1/4にぴったり重なると共振という現象が起き、最も大きな電磁波を放射します。
なぜ波長の1/4にぴったり重なると大きな電磁波が放射されるのか?もう少し詳しく見てみましょう。電圧の波(電気力線)は端が切れていても伝わり、1/4波長のところで最大の電圧差となります(下図の赤色)。電流は切れていると流れないので電源のところで最大になります(下図の青色)。この電線を180°に広げたものが「半波長ダイポールアンテナ」です。
クーロン力により電荷が移動する、つまり電流が流れることから電磁波は発生しますので、電流が多い方が電磁波がより多く発生するわけです。半波長ダイポールアンテナは共振現象により電圧・電流のピークが一番高くなりますので、一番電磁波が発生しやすくなるということになります。
つまり、最も効率よく電磁波が発生させるアンテナ長は、電磁波の波長の1/2(回路で考えるとGNDと対で電磁波が伝わるので信号線は1/4)となります。
2.“性能の悪い”ダイポールアンテナ
今回のテーマは「性能の悪いアンテナを作ろう!」ということですので、前回の話とまとめると「性能の悪いダイポールアンテナ」を作るためには、
- 電荷間のクーロン力を強くし、電気力線が伸びないようにする。
→2本の電線(信号とGND)をなるべく近づける - 電子機器ないに半波長ダイポールアンテナを作らない
→1/4波長(GNDと合わせて半波長)の導体を作らない
ということになります。
どの程度、製品設計上で実現できるかどうかは別問題ですが、手段は単純ですね。
ここで忘れてはいけないのが、いくら性能の悪いアンテナを作っても電流が流れている以上、多かれ少なかれ電磁波は発生してしまうことです。しかし、EMCとは、「電磁波を出したり受けたりしても電子機器の動作に支障をきたさないようにする」ということです。電磁波をゼロにすることが目的ではありません。ですから「なるべく出さないよう、受けないようにする方法」を知っているというのはとても大切な事なのです。
今回は性能の悪いアンテナの作り方をお話ししました。アンテナについては本当にEMCに必要な部分しか説明していませんので、ご興味のある方は専門の書籍等を参考にしてください。
このようにして、EMC設計とはいかに製品上に性能の悪いアンテナを作るがポイントになります。今回はダイポールアンテナのことを考えてみました。アンテナができてまうことはEMC設計においては望ましくないことなのですが、導体に電流が流れればどうしてもアンテナはできてしまします。次回は電子機器内のどのようなところに意図せずアンテナができているのかを考えていきたいと思います。
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