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EMC設計のポイント6 プリント基板のEMC設計の進め方、2つのコツ

はじめに

今回は、プリント基板のEMC問題の解決について、図研テックのエンジニアが日々、お客様と対話させていただく中で、「よく聞く問題」とその解決方法としてご提案する内容のアウトラインをご紹介します。

あらゆる電子機器のEMC問題の解決において、プリント基板(部品・配線レイアウト)の対策は、特に重要な要素であり、問題解決のために“真っ先に取り組むこと”という考え方には、多くの回路設計者・基板設計者の皆様からご賛同をいただけると思います。

また、実際にお客様とお話させていただくと、設計完了~試作後の“EMC対策”だけではなく、いわゆるフロントローディングとして、“EMC設計”に取り組んでいる企業も決して少なくないと感じています。本稿では、なかなか理想通りには進まない“EMC設計”実践のコツを2つご紹介します。

具体的にEMC設計支援サービス内容を知りたい方は、こちらの資料をご覧ください。

EMC設計のポイント

ここではEMCの試験をクリアすることがミッションである回路設計者の視点でお話を進めます。
また、多くの企業がそうだと思いますが、回路設計と基板設計を分業している、という前提です。

重要なポイントは、2つです。

  • 1点目は、回路設計者と基板設計者間で、回路のどの箇所をどのようにレイアウトするか、具体的なルールが明確であり共有できていること。
  • 2点目は、回路設計者と基板設計者間でコミュニケーションがしっかりとれていること。

拍子抜けしてしまいそうな“当たり前”のことではありますが、遠回りなようでも、この2つのポイントを掘り下げてみると、問題解決に大きく近づくことが少なくありません。

「具体的なルール」とは?

それでは、具体的なルールが明確ではない、共有できていないとは、具体的にはどのようなケースでしょうか?

多くの場合、ルール(=配置・配線指示書)は回路設計者が作成していると思いますが、ここで注意点があります。それは、「作成したルールが(その基板で)現実的に適用可能なルールであること」です。

例えば、ルール通りに設計を進めていくと、配線密度の高い箇所に様々なルールが設定されており、全てを適用することが困難な場合、結果的に、基板設計者はルールを適用できず、レイアウトの進め方・結果(少なくともその一部)を個別に判断せざるを得ないことになってしまいます。

極端な例ですが、配線にシールドするという非常に有名なEMCルールについて「全ての配線にシールドをする」と表現されていた場合、本当に“すべての配線”に“シールドをする”ことは困難である場合が多く、現実的にルール通りには配線できなくなることが容易に想像できます。(図1参照)

つまり「具体的なルール」とは、クロックや周波数の高い信号などプライオリティの高い箇所から優先的に、現実的にレイアウトできるようにルールを決めていくことです。

図1

「具体的なルール」の検討方法

前述の“極端な例”のように現実的にレイアウトできないようなルールが設定されていると、結果的にレイアウト設計者への依存度が高まり、確実にEMC設計が実践されずに設計が進んでしまうことが予想されます。(もちろん、スキルの高いレイアウト設計者が担当していれば問題は表面化しませんが)

それでは、どのようにして現実的にレイアウト可能なルールを作成すれば良いでしょうか。

最も現実的かつ実践しやすい方法は、回路がほぼ同一、層構成が同一である、設計が終了している基板など、いわゆる”類似基板”のレイアウトをもとに検討することです。類似基板のレイアウトを確認し、ルールの適用が必要であるのに適用されていない箇所に対して、ルール適用のための検討を行います。(つまり、適用できている箇所は、類似基板と同様にレイアウトするということをルール化します。)

配線の密度に余裕があり、無理なくルールを適用できそうな箇所は、大きなレイアウト修正検討などをしなくても、ルール設定が可能です。例えば、ICのパスコンや、コネクタ直近へのフィルタのレイアウトに改善の余地のある場合などは、類似基板を参照し実現可能と判断できれば、「現実的にレイアウト可能なルール」として設定することができます。(図2、図3参照)

図2

図3

ルール適用が困難な箇所は

配線の密度が高いなどの理由で、適用が困難な箇所は、ルールを適用するためのレイアウト案を考えます。ただし、基板のレイアウトを見慣れていない回路設計者が、新たにルールを適用するための方法、レイアウト案を考えることは難しい場合も多いと思います。

そこで、2点目のポイントが必要になります。

コミュニケーションはしっかりと

回路設計者は、「この箇所にこんなルールを適用したいのだけどいい方法はないか?」と基板設計者に相談すると適用を可能にする方法が見つかる可能性が高いです。

当然、基板設計者は基板のレイアウトのプロですから、部品の移動や、一部の制約を緩和すれば可能であるとか色々アイデアが出てくるはずです。

このように、回路設計者と基板設計者間で相談しながら、プリント基板レイアウトのルールを具体的に決めていきます。そして回路設計者から、具体的なルールとその意図を基板設計者にきちんと共有します。

そもそも開発期間は短くなる一方、回路設計と基板設計の分業体制についても、企業によっては「ロケーションそのものが異なる」「基板設計を外部委託している」などコミュニケーションが取りにくい環境であったことと思います。そのうえに昨今のコロナ禍ですので、仮に同じロケーション、社内であってもコミュニケーションの難度が急に上がってしまったこともあるのではないでしょうか。しかしながら、コロナ禍以降、急速に日常化したオンラインミーティングを活用することで、今後はコミュニケーションの難度の課題は、好転している/好転していくのかも知れません。

EMCを考慮した基板設計

こうして、現実的にレイアウト可能なルールができて、回路設計者と基板設計者間で共有ができれば、後はそのルール通りにレイアウトするだけです。

ただし、事前に決めたルールが適用できているか、設計の途中で何回かチェックを行いながら設計を進めていきます。これは、ルールの適用漏れがあった場合の、修正の工数を最小とするためです。

また、より優先度の高いルールが設定されている箇所からレイアウトをすることも、修正の工数を最小にするために重要な手法です。そのため、多岐に渡るルールの優先順位付けについても、ルールの作成時から意識しつつ、個別の設計プロジェクト毎にしっかりコミュニケーションをとることが重要です。

最後に

いかがでしょうか。少し遠回りに、また過負荷な取り組みに思われるかもしれませんが、EMC問題で困っている製品、困る可能性がある製品を設計する際に、お客様からご相談いただくお悩みの大部分は、この2つのコツをうまく掘り下げることで、解決に近づきます。

もちろん、「ルール適用」「コミュニケーション」といった業務課題だけではなく、その製品・その基板固有の技術的な課題の解決も重要です。

図研テックでは、多くのEMC設計・対策の問題を解決してきたエンジニアが、現実的にレイアウト可能なルールを作成するために不可欠な、EMCの基礎知識を習得いただくためのEMC設計教育や、EMC設計の際に、現実的にレイアウト可能なルール作成や、基板レイアウトのチェックをご支援するサービスなど、様々な角度から、EMC設計の問題を解決するソリューションをご用意しています。お気軽にご相談ください。

 

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