EMC設計のポイント3 機器内の隠れたアンテナを探すコツ
2020.04.17
図研テックのEMCエンジニアが、EMC設計のポイントを全6回に渡り解説しています。
前回は電磁波を出しやすいダイポールアンテナの構造から逆に考えて、性能の悪いアンテナの作り方を説明しました。電子機器内にダイポールアンテナ以外のどんなアンテナがあるのか探してみましょう。
1.いろいろなアンテナ
アンテナと言うと、皆さんはどんなものを思い浮かべますか?やはり、ダイポールアンテナのような棒状のものを真っ先にイメージするのではないでしょうか?
また、身近なアンテナとして、家の屋根に設置された魚の骨みたいな形をしたテレビ用アンテナ(YAGIアンテナ)、あとは衛星放送用のパラボラアンテナなどが有名でしょうか?ひと昔前の携帯電話はアンテナがついてましたね。あ、もちろん今もついているのですが、本体の外側には見られないものが多くなりました。
エンジニアの皆さんにとっては釈迦に説法かも知れませんが、要するにアンテナというのは色んな形状のものがあるということが言いたかったのです。逆に言うと、電子機器の中には1/4波長の電線以外にもアンテナとなってしまうものが存在するかもしれないということです。
例に挙げたアンテナは通信用のアンテナですから「必要なアンテナ」です。当然なくすことはできません。しかし、電子機器の中には「意図せずアンテナになってしまうもの」が存在する場合があります。
2.電子機器の中にある“アンテナ”
ダイポールアンテナ以外で電子機器の中によくある「隠れたアンテナ」の代表格がループアンテナとスロットアンテナです。ループアンテナは金属がループ状になったアンテナです。スロットアンテナは金属にスロット(細長い切抜き)を入れたアンテナです。どちらもやっぱり見たまんまですね(笑)
このような形でも電磁波を送受信するアンテナになるのですね。これらのアンテナがどのように電磁波を送受信するのかという話はとりあえず置いておいて、電子機器内のどこに「ループアンテナ」と「スロットアンテナ」があるのかを探してみましょう。
3.ループアンテナが潜む場所
まずはループアンテナですが、電子機器の中で金属がループ形状を作っているところとはどんなところか思いつきますか?ケーブル類の長さが余っていると巻いてあったりしますね。これはもちろんループアンテナとなります。
しかし、エンジニアの皆さんはわざわざケーブルを余らせてループを作ったりはしないでしょうし、これで電磁波がたくさん出てしまったら原因としては真っ先に思いつくでしょう。やっかいなのは「気づきにくい隠れたアンテナ」です。例えば、「基板上の配線は交差することはできないからループアンテナにはならないな・・・」と思うかもしれません。
確かに同じ面で交差はしないかもしれませんが、違う面を使って交差してしまってループを作っている場合があります。これはまさにループアンテナです。そして、完全にループになっていなくても、ループに近い形状だとループアンテナとして作用してしまいます。つまり、基板の配線で障害物をよけて迂回したり、ケーブルやハーネスなどが少し余ってグニャリと曲がっているようなところもループアンテナになり得ます。結構探し出すとキリがありません(笑)
4.スロットアンテナが潜む場所
次にスロットアンテナですが、これは分かりやすいかもしれません。電子機器というのはおそらくほぼ全て「完全に金属で密閉されている」ということはないと思います。通気口もありますし、ケーブルやハーネスを通す穴、何かを接続するためのコネクタ部もあるでしょう。「防水のスマートフォンなどは?」と思うかもしれませんが、防水だとしても金属で密閉されているわけではないのでスロットアンテナになってしまいます。電子レンジのガラス面はどうでしょう?これも「何もしなければ」スロットアンテナです。しかし、ここには電磁波が漏れない工夫がしてあります。(どんな工夫なのかはまたの機会にお話しします)
このように、見た目でわかるスロットアンテナはまだいいのです。問題は「穴をふさいだつもり」 「穴を開けたつもりがない」と思っている場所です。
「穴をふさいだつもり」になっている場所は例えば、筐体をいくつものパーツで組み合わせた場合のつなぎ目です。「ちゃんと隙間がないようにネジ止めしたよ!」と言うかもしれませんが、電磁波を甘く見てはいけません!人間の目で「ピッタリくっついている」ように見えても隙間は存在します。金属同士が完全に導通してなければダメなのです。ということは塗装などが塗ってあったり防水加工で導通していない場合もスロットアンテナができているのと同じです。
「穴を開けたつもりがない」場所と言えば、基板上のスルーホールがつながっている部分などです。たくさんの配線を引いているとスルーホールが増え、意図せず導体の上に長いスロットアンテナを作っていることがありま。
このように、電子機器にはありとあらゆるところに「意図していないアンテナ」が存在する可能性があります。ちょっと気が遠くなってきますね…。全部のアンテナをなくそうと思ったら製品なんてできなくなってしまうかもしれません。だとしたら、やっぱり「なるべく性能の悪いアンテナ」にするしかありません。
今回は技術的な話というよりは、単に電子機器内のアンテナの探し方の話になってしまいましたが、次回は、ダイポールアンテナの時と同様、ループアンテナやスロットアンテナの構造から、どのようにすれば「性能の悪いアンテナ」が作れるのかを考えてみたいと思います。
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