部品DB最適化の「3つのポイント」と「4つの壁」
2024.05.17
はじめに
本記事では、部品DB最適化の「3つのポイント」と、取り組みを進める上で乗り越えるべき「4つの壁」について解説します。
図研テックでは、「3つのポイント」を踏まえ、「4つの壁」を効果的・効率的に乗り越えるためのサービスをご提供していますので、「とりあえず概要が知りたい」方は、下記の資料をダウンロードしてご覧ください。
- 部品DBの登録基準書の重要性 「登録基準コンサルティングのご紹介」
- 部品DBの登録情報の最適化 「部品DBクレンジングサービスのご紹介」
ご興味を持っていただけましたら、引き続き本記事を併せてご覧ください。
部品DB(部品データベース)とは?
部品DBとは、電子部品の特性情報、製造情報、資材情報などを管理するためのデータベースです。
電気設計者が利用する回路・基板設計CADには、例外なく部品DBの機能が実装されているはずです。改めてその理由を、メカ設計と回路・基板設計の対比でイメージしてみます。
回路・基板設計は、仕様を満たすスペックの部品を、部品メーカーが提供する部品の中から最適なものを選定し、それらを組み合わせて設計していくという特徴があります。
世界中の部品メーカーが提供している膨大な部品の中から最適な部品を都度探すよりも、自社で使用実績がある部品をデータベース化してそこから選定する方が、はるかに効率的です。
余談ですが、回路・基板CADに部品DBが実装されているか、例外が無いのか興味があったので、試しにChatGPTに質問してみました。
以下、Q.は筆者の入力、A.がChatGPTの回答です。
- 代表的な回路・基板設計用のCADを挙げてください。
- (CR-8000を含む複数のCADツール名を挙げてくれました。)
- ここまでに例示された、どのCADツールにも部品の情報を格納するDB・CADライブラリは実装されていますか?
- はい、CADツールには部品情報を格納しておくためのデータベース(DB)またはCADライブラリの機能が実装されています。これらの機能により、設計者は部品のシンボル、フットプリント、パラメータ、および関連情報を一元管理し、設計プロセスで再利用することができます。
CADライブラリは、部品データのコレクションであり、設計者が回路と基板の設計に使用する部品情報が含まれています。一般的には、部品のシンボル(回路図上で表示される図記号)とフットプリント(実際の部品がプリント基板上に占めるスペースとパターン)がライブラリ内に格納されます。また、部品のパラメータ、データシート、製造元の情報なども含めることができます。
CADツールは、設計者がライブラリ内の部品を検索し、回路図やプリント基板にドラッグ&ドロップすることで簡単に部品を利用できるようにします。これにより、部品の一貫性と正確性を保ちながら、設計の生産性を向上させることができます。(後略)
かなり正確な部品DB・CADライブラリの説明に見えます。
CADライブラリ・部品DBは「部品の一貫性と正確性」、「設計の生産性向上」を両立させる基礎という説明に違和感を持つ方は少ないのではないでしょうか。
CADライブラリ・部品DBの有効活用とは?
AIの回答はあくまでも“参考”ですが、図研テックは回路・基板設計の生産性を向上させる、QCDを向上させるために、部品DB・CADライブラリの有効活用を様々なかたちでご支援しています。
ひと口に有効活用といっても、お客様毎に開発規模や製品のビジネスモデルが異なるため、一様の基準はありませんが、どのような開発規模・ビジネスモデルであっても、次の3点は部品DB・CADライブラリの有効活用には、欠かせない要素です。
- 過去の製品で使用実績がある部品をCADライブラリ・部品DBから検索できる
- 回路CAD・基板CADの電気特性等のチェック機能が活用できる
- 部品表やディレーティング表などのドキュメントが自動出力できる
1.はCADライブラリ・部品DBの部品分類と部品種毎に検索キーにするスペック情報を適切に登録しておくこと(=高い検索性)、2.と3.はCADライブラリ・部品DBの利用目的を明確にした上で、その目的を達成するために必要なスペック情報が正確に登録されていること(=正確な情報登録)、と言い換えることができます。
このように概念図にしてみると、部品DB・CADライブラリの有効活用は、回路・基板設計の広範囲に影響することに改めて気づかされます。
よくあるCADライブラリ・部品DBの問題点
優等生的な“あるべき論”は上記の通りですが、現実的には、なかなか一筋縄ではいかないものです。これまで図研テックで部品DB・CADライブラリに関するご支援を通じて、様々なお客様のお悩みを伺いましたが、問題点と原因には、以下のような共通点があります。
【問題点】
- 部品データの重複/情報の歯抜け/登録ミスの混在といった理由から、設計業務で十分に活用されていない
【原因】
- 登録基準が整備・徹底されていないため、登録データにバラツキがある
- 事業統合等、長年の運用の中で基準の異なる部品DBが併存している
- 登録ミスをチェック・修正する仕組みやプロセスが無い
CADライブラリ・部品DBは、そもそも登録されている部品が数万点規模であることが珍しくなく、新規設計時に新たに採用する部品の追加や、個々の部品自身のライフサイクル、自社の設計や購買方針の変化など、登録されている情報の更新頻度が決して低くないこと、登録する情報は、部品種毎に異なるスペック・属性を、場合によっては1つの部品・シリーズに対して数十ページあるようなデータシートやカタログの中から、適切に読み取って登録する必要があることなど、データ管理の量と質の両面で、なかなか“あるべき論”どおりの運用が難しいという性質があります。
このように書きだしてみると一大事のように見えますが、CADライブラリ・部品DBの問題は顕在化しにくいことも特徴的です。何故、顕在化しにくいのか?というと、ひとり一人の設計者やCAD・システムの管理者、購買担当者が優秀であることに他なりません。本当は改善が必要であっても、その業務に関わる人(人々)の経験やスキルで乗り切ってしまえる、という構図です。
乗り越えるべき4つの壁
前置きが長くなりましたが、ここから表題の回収です。
回路・基板設計のQCD向上に不可欠なCADライブラリ・部品DBの最適化(=クレンジング~必要な情報の追加)で乗り越えるべき壁とは、「スキル」「工数」「質」「システム」の4つの壁です。
- スキルの壁
「最適化」の要件を決めるために、半導体や電子部品の知識とCADや設計業務に関連するITシステムの知識を持った担当者(チーム)を専任でアサインする - 質の壁
部品DB・CADライブラリの登録ルールを周知・徹底し、人的ミスを最小化、フォローできるプロセスを構築する - システムの壁
部品DB・CADライブラリを有効活用するためにCAD環境、周辺システムとの連携を見直す - 工数の壁
要件が決まり次第、最適化の取り組みを進めるために十分な期間と工数を確保する
図研テックでは、これら4つの壁を段階的に乗り越えることをお勧めしています。一息に乗り越えようとすると、最適化の効果予測にはじまり、担当者(チーム)のアサイン、工数・期間の確保など、計画段階で自縄自縛に陥りかねません。
何から取り組むべきか? ―3つのポイント―
では、自縄自縛に陥らずに、その実現に向けて何に取り組むべきか?というと、遠回りするようですが部品DB・CADライブラリのクレンジングに取り掛かる前に、登録基準書の見直しから始めることをお勧めします。
図研テックでお客様の部品DB・CADライブラリのクレンジングをご支援する際には、必ず登録基準書の開示をお願いしていますが、体感としては約半数のお客様の登録基準書には、次のような問題が含まれています。
- 登録基準書が更新できていない/老朽化・形骸化している
- 登録基準書の内容が不明瞭
- そもそも明確な登録基準書が存在しない
部品DB・CADライブラリのクレンジングに先立って登録基準書の問題点を解消することは、前述した「4つの壁」を乗り越えるために必要な取り組みでもあります。まずは次の3つのポイントから検討を進めるとスムーズです。
- 利用目的
回路・基板設計業務のQCD向上のために、何を実現したいか?
(例:回路チェック機能の有効活用) - 部品DBの構造
検索しやすい部品分類と部品種毎に登録する属性が決まっているか? - 登録作業の手順
データシートの参照箇所や値の変換方法など、登録作業の手順が決まっているか?
これら3つのポイントを明確にすることは、「スキルの壁」「質の壁」「システムの壁」を乗り越える足掛かりにもなります。
以下に、登録基準書整備のポイントについて、一例をご紹介します。
上図は部品DBに登録する「定格電力」属性についての登録基準書イメージです。
「説明」と「入力箇所」の欄では、3つのポイントのうち、「利用目的」と「部品DBの構造」に応じて、何故、この属性情報を登録するのか?と、実際の入力画面で、どこに値を入力するのか?を記載します。
「対象部品」の欄には、「定格電力」属性の登録が必要な部品種を、「登録ルール」「書式」の欄には、データシートに掲載されている値を、どのようなルールで登録すれば良いか?を記載します。
エレキ設計に携わっている方にとっては、当たり前過ぎて冗長に感じる情報が含まれていると思いますが、歯抜けや誤記を防ぐためには必要な情報です。
続いて、自社で採用している部品メーカーのデータシートを例にして、データシート上のどの値を読み取り、登録すれば良いのか?「登録作業の手順」を「登録例」に記載します。
同一の部品種であっても、データシートの様式は部品メーカー毎に様々です。部品DB登録作業に不慣れなうちは、登録しようとしている型名の部品情報が、どこに掲載されているのかを見つけるだけでも苦労する場合があります。
すべてを網羅することは現実的ではありませんが、部品種毎に自社で採用しているメーカーのデータシートを例にして、どのような規則で型名が付けられているか?や、掲載されている値(例の場合であれば“0.25W”)を、ルールに則って登録するべき値(“1/4”)まで、具体的に記載しておくことをお勧めします。小数表記と分数表記を併用する場合には、対応表を付記しておくことも有効です。
図研テックでは、登録基準書の見直しをご支援するサービスをご用意していますので、ご興味のある方はお気軽にご相談ください。
オンライン/オフラインのミーティングの機会をいただけましたら、登録基準書(サンプル)の全容についてもご説明いたします。
どのようなご支援ができるか?については、下記の資料をご覧ください。
部品DB・CADライブラリのクレンジング
登録基準書の見直しができれば、いよいよ部品DB・CADライブラリのクレンジングに取り掛かります。
部品DB・CADライブラリのクレンジングとは、設計者が目的に応じて、電子部品のスペック情報を用いて検索することで、必要な部品を選定することができる状態に整備することです。
運用中の部品DB・CADライブラリから、
- 同一の部品が異なるコードで登録されている
- 電気特性やサイズなどスペック情報に歯抜けや登録ミスがある
- 部品分類の登録(選択)に誤りがある
といった、問題を取り除く(=クレンジングする)だけでも検索性の向上による設計業務のQCD向上に効果が期待できます。
加えて、類似部品の集約やEOL情報(ライフサイクル情報)の付与など、部品DB・CADライブラリの最適化を進めていくことで、更に大きな効果が期待できます。
クレンジングについては、過去記事で詳しく解説していますので、こちらも合わせてご覧ください。
3つのポイント・4つの壁
「登録基準の見直し」から「クレンジング」と段階を踏んで取り組めば、4つの壁のうち、「スキルの壁」「システムの壁」「質の壁」の3つは、自ずと乗り越えることができるはずです。
残るは「工数の壁」ということになりますが、登録基準書を見直す内容と文書化する量(ページ数)やクレンジングの対象とする部品点数によって、大きく増減します。特にクレンジングは地道な作業を正確に・大量に、こなす必要がありますので、思いのほか負荷の高い業務です。
「登録基準書の見直し」「クレンジング」に初めて取り組む場合には、十分な工数の確保と余裕をもったスケジュールを意識することをお勧めします。
まとめ
今回はCADライブラリ・部品DBの最適化のよくある問題と背景、解決方法をご紹介しました。
本記事の内容が、登録基準書の見直しやクレンジングを実行する際の参考になれば幸いです。
図研テックでは、登録基準の見直し・クレンジングの計画から施策実行までご支援しています。部品データベース・CADライブラリの運用に課題を感じている方はお気軽にご相談ください。
詳しいサービス内容の説明資料は、下記からDLいただけます。
「回路・基板設計業務を改善したい」「部品データベース・CADライブラリの運用に課題を感じている」「登録基準書やクレンジングに取り組みたい」などお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。
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